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2017.12.25 議会改革

自治体議員は選良か

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東京大学名誉教授 大森彌

 「選良」とは、辞書で引くと、例えば、「優れた人物を選び出すこと。またその選ばれた人。特に、代議士をいう」とか「選ばれた優れた人物。特に、国会議員を指す」とある。「選ばれた」→「優れた」→「国会議員」という連結規定となっているが、選挙で選ばれたこととその人物が優れているかどうかの関係は検証を要する。実際の国会議員の所業を見れば、そうではなさそうだといいたくもなる。もっとも、気力・体力・資力・知力の点で優れていなければ選挙での当選はおぼつかないから、選ばれたということは、それなりに優れた人物であるといえなくもないのかもしれない。
 「選良」の英訳は「elite(エリート)」であるが、エリートの対語はノンエリート、「一般人」、「ただの人」、「普通の人」であろう。しかし、日常用語では、議員をエリートとはあまりいわないし、まして選良とは呼ばない。選良は死語に近いのではないか。
 ところが、自治体議会議員に選良が使われているのである。例えば、日本初の議会基本条例である北海道栗山町議会基本条例(2006年5月制定)では、議員の活動原則を定めた3条に「議員は、議会が言論の府であること及び合議制の機関であることを十分に認識し、議員相互間の自由な討議の推進を重んじなければならない。2 議員は、町政の課題全般について、課題別及び地域別等の町民の意見を的確に把握するとともに、自己の能力を高める不断の研さんによって、町民の選良にふさわしい活動をするものとする。3 議員は、個別的な事案の解決だけでなく、町民全体の福祉の向上を目指して活動しなければならない」(下線筆者)と規定されている。
 この2項の条文解説には、「議員が、町政における課題全般について多様な住民の意見を把握するとともに、議員としての資質向上等に努め、選挙で選ばれた議員としてふさわしい活動をすることを規定」とある。この解説では「町民の選良」とは「選挙で選ばれた議員」と同義であるから、条例本文に、わざわざ「選良」という言葉を用いている理由が何かは明らかではない。
 この最初の栗山町の条例が参考にされたのであろうか、その後の市町村の議会基本条例には「選良」が出てくる。この「町民の選良にふさわしい活動」は「町民の代表にふさわしい活動」と言い換えられるから、選ばれたということが重視されている。
 2006年12月に都道府県としては初めての議会基本条例である三重県議会基本条例には「選良」は出てこないが、政治倫理を規定した24条に「議員は、県民の負託にこたえるため、高い倫理的義務が課せられていることを自覚し、県民の代表として良心と責任感を持って、議員の品位を保持し、識見を養うよう努めなければならない」とあり、県議を選良とみなしているともとれる表現ぶりである。神奈川県議会基本条例では、議員の使命を規定した3条で「議員は、県民の直接選挙によって選ばれた公職として、常に県政の課題を把握し、公益性の見地から、県全体を見据え、県民の多様な意見を県政に反映させることを使命とする」とある。
 「県民の代表」とか「県民の直接選挙によって選ばれた公職」としているから、議員については、一般職の職員とは違って、選挙で選ばれたということが重視されている。選ばれたことそれ自体に価値があるという意味合いであろう。
 選ばれる前は、また選ばれなければ「ただの人」であるから、議員に選ばれたことが決定的な違いである。選挙中に平身低頭、ひたすら「お願い」を繰り返した「ただの人」が当選して議員バッジをつけ、「先生」と呼ばれると、胸を張り、偉そうな素振りをするから、やはり「選良」になるのであろうか。
 しかし、議会基本条例での規定ぶりを見ると、議員が選良であることには、むしろ、「ただの人」にはない自制や責任が伴うことを自覚し行動しなければならない、といっているようにも思える。選ばれたからといって、特権を得たわけではなく、おごってはならない、横柄であってはならない、威張ってはならないのである。
 しかし、実際には、選ばれて議員になると、自分は「ただの人」とは違って、それなりにふさわしい言動をしなければならないと考えている様子がうかがえる。それを仮に「選良意識」と呼べば、その表れのひとつは、議会の審議は選良としての議員のみで行うべきで、選良たる者が一般人の意見を聞くことなどは必要ないし、選良としての「コケン」にかかわると思っていることではあるまいか。
 選良としての議員が何人もいるのであるから、その間で議論して結論を出せばよい、議会審議への住民参加など必要ないと思っているのかもしれない。外部からの支援など眼中にないのかもしれない。
 もっとも、皮肉を込めていえば、住民の参加などで、選挙で選ばれて選良だと思っていたのに、実は「一般人」以下であることが露見する心配があるのかもしれない。普段は、執行機関に質問していればすむのに、住民から質問を受けて答えられなければ恥をかくことになるかもしれない。
 選挙で当選するのは並大抵のことではなく、それをクリアしたのは何より優れていることの証しであるといえないこともないが、当選した後、議員としてどんな活動をするのかが明らかにならなければ、優れているかどうか分からない。選挙で選ばれた議員にふさわしい活動を行うためには、自己の能力を高める研さんも必要であるが、分からないこと、判断が難しいことがあり、そうしたことについて外部の支援を求めても、別に議員として恥ずかしいことではない。この意味での選良意識は払拭した方がよいのではないか。
 地方自治法で自治体は「議員報酬を支給しなければならない」と義務付けられているという意味で、自治体の議員は有給職であることに違いはないが、それは生活給としての処遇ではない。プロの政治家を志してはいない住民でも議員になれるし、現になっている。選良だから議員としての活動のために広く住民等の支援を求めてはいけないなどと考える必要はない。
 選挙のときの応援以外に、政策の構想や判断に関して、住民や専門家等に頼ってよいのである。参考人制度及び公聴会制度を十分に活用して、町民の専門的又は政策的識見等を議会の討議に反映させればよいのである。住民、住民団体、NPO等との意見交換の場を多様に設けて、議会及び議員の政策能力を強化するとともに、政策提案の拡大を図るのもよいのである。議案審査や事務調査に必要な専門的事項の調査について、議会は学識経験者等の専門的知見を活用することができるようになっている。
 議会審議の最後は、表決権を有する議員が事を決するのであるが、その事と次第によっては、表決の前の審議過程で他に支援を求めてもよいし、その方が開かれた議会になる。質問の先が執行機関だけというのは狭量ではないか。片意地を張らず、偉ぶらず、外部からの政策形成支援を求めることを、むしろ自治体議会の議員にふさわしい活動としたいものと考えるが、どうであろうか。

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