2017.11.27 政策研究
第56回 議長不信任決議の効力とその取扱い
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
議長不信任決議の効力とその取扱い
議長の任期に係る申合せで2年交代としていたが、2年が経過したにもかかわらず当該議長が辞職をしなかった。申合せ違反について他の議員から指摘があったが、議長任期は法律で4年とされているとして、頑として受け付けなかった。そこで議員の中から議長不信任決議が提出されたが、その際、議長を擁する会派から議長信任決議が同時に提出された。この場合の2つの決議の議事運営上の効力及び取扱いはどのようなものであるか。
議長の任期は、地方自治法(以下「法」という)103条2項に規定のとおり、議員の任期によるため原則として4年である。
【法103条】
② 議長及び副議長の任期は、議員の任期による。
そして、法律で規定された任期前に議長の職を辞するには、法108条に規定のとおり議長自らが議長の職を辞したい旨の申出を議会の開会中に行い、当該申出を議会において許可する必要がある。そのため、閉会中において議長の辞職が許可されるということはない。
【法108条】
普通地方公共団体の議会の議長及び副議長は、議会の許可を得て辞職することができる。但し、副議長は、議会の閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。
ここで、実際の地方議会においては、議会の代表者である議長職をめぐり、各種の先例や申合せが存在する。すなわち、議長の任期を法定の期間より短くする旨の申合せを行い、当該申合せの任期が到来したら、議長は自ら議長の職を辞職する旨の申出をすることを申し合わせることである。
一般的にはこの議会で定めた申合せに従い、議長が順次就任していくわけであるが、時として申合せを遵守せず、地方自治法の規定を盾に申合せを反故(ほご)にする議長が現れることがある。
議長任期の申合せに反する行動をとった議員に対しては、法的には地方自治法による任期の規定が申合せに優先するため、法的に対抗する手段がない。
そこで、本問のように議会における申合せを遵守しなかった議長の下では、議員が議会の構成員として議事に参与することはできないとの意思を表示する議長不信任決議が提出されることがある。
議長不信任決議は、法178条に規定された長に対する不信任決議とは異なり、地方自治法に根拠を有する決議ではなく事実上の決議である。そのため、その提出要件は一般の決議と同様、標準議会会議規則14条の「その他のもの」の要件である○人以上の賛成者と連署して提出する必要がある。
【標準都道府県・市議会会議規則14条】
議員が議案を提出しようとするときは、その案をそなえ、理由を付け、法第112条第2項の規定によるものについては所定の賛成者とともに連署し、その他のものについては◯人以上の賛成者とともに連署して、議長に提出しなければならない。
【標準町村議会会議規則14条】
法第112条(議員の議案提出権)の規定によるものを除くほか、議員が議案を提出するに当たつては、◯人以上の者の賛成がなければならない。
なお、議長不信任決議が議会で可決されても何らの法的な効果は生じないため、議長はその職にとどまることが可能である。各議会で多く見られる傾向として、議長不信任決議が可決されるとかえって議長の交代に関する話合いがこじれることが多いため、できるだけ議長不信任決議を議決するまでに政治的な話合いをする方が円滑な議会運営にはプラスとなる。
ところで、本問におけるように議長に対する不信任決議が提出されると、議長を支持する議員から議長不信任決議の対抗措置として議長信任決議が提出される場合がある。
この場合の議事運営としては、議長信任決議と議長不信任決議を一括して議題とし、一括して提案理由の説明、一括質疑、一括討論の後、採決を議長信任決議から行うこととなる。議長信任決議が可決されれば、一事不再議の原則により議長不信任決議は議決不要となる。議長信任決議が否決された場合は、議会としての意思が確定していないため、引き続き議長不信任決議を諮ることとなる。
議長不信任決議が先に提出されていても議長信任決議を先に諮るのは、議会の審議は一般に現状を否定するものより現状を肯定するものを先決とすべきであるとされており、現状を肯定するのは議長信任決議であるからである。
議長不信任決議は、それに関係する議員だけでなく議会全体を混乱に陥れ、その後の議会運営にも影を落とすこととなるため、できるだけ慎重に取り扱うべき案件であるといえる。