2025.12.10 New! 予算・決算
第3回 ビルド&スクラップ
残ったカードが示すもの
多くの自治体が行っている行財政改革の議論は、これに似ているかもしれません。
具体的な事業に切り込んで支出を削減する個別の見直しも大事ですが、それと並行して行わなければならないのは、まちの将来像の共有です。
厳しい財政状況の中で、将来どのようなまちを残していきたいか。
必ず実現しなければいけないまちの将来像は、どういうものか。
その実現こそが自治体運営の目的であり、事業の見直しはあくまでも手法。
財源が限られ、あれもこれもできない制約の中で、それでも必ず実現したいまちの未来はどんな姿か、まずその姿が描かれ、共有できなければ、その将来像の実現に必要なものは何かという視点で個別の事業を語ることができないはずです。
その上で将来像の実現のために必要不可欠なもの、優先順位の高いもの、力を入れていくべきものはどれか、逆に優先順位を下げざるを得ないものは何かを議論していく。
このプロセスがなければ、個々の事業の「必要性」の議論がかみ合うはずがありませんし、強引に削ることだけに終始すれば、後で手元に残った施策事業の全体像を見て「こんなはずではなかったのに」ということにもなりかねないのです。
財政健全化は目的ではなく手法
既存事業を見直す財政健全化の取組みは、削ること自体が目的なのではなく、新たな政策を推進するために必要な財源を生み出すための手法にすぎません。
既存事業の見直し(スクラップ)で得られた財源を活用して新たな事業を始める(ビルド)「スクラップ&ビルド」では、既存事業の見直しが進まなければ新たな事業を始めることができませんが、その場合ネックになるのは、なぜ既存事業を見直すのかという目的の希薄さゆえの改革モチベーションの低迷、「何でうちがこの事業を見直さないといけないんだよ」という負の感情です。
ところが、新たな事業を始めるために既存事業を見直す「ビルド&スクラップ」であればどうでしょう。新しいことをやりたいときに、そこで得られる課題解決の効果と比較して優先順位の低いものを見直していくのであれば、事業の見直しは目の前にある政策課題の解決という目的を達成するための手法となり、見直しの大義が立つわけです。
「ビルド&スクラップ」は新しいことをやるために今やっていることを見直す、と私は説明してきましたが、財源が不足し、新規事業にまでとても手が回らない場合は「スクラップ&スクラップ」にしかならないとこぼす人もいます。
しかし、今やっている事業のうち優先順位の高いものを維持する財源確保を「ビルド」として捉えればどうでしょうか。
大事なものを守り抜くために、それよりも優先順位が下位のものを苦渋の選択で捨てる。それもまた「ビルド&スクラップ」であり、これを実効あるものとするには、「何を実現するための見直しなのか」という「見直しの大義」をきちんと考えることから始めなければならないのです。
目指す未来の姿の共有を
来るべき令和8年度当初予算案においては、当局から財政危機を理由に「抜本的な歳出見直し」が提案される自治体もあるでしょう。
そこで見直しのやり玉に挙がっている施策事業には、かつて議会としてもその推進を承認し、後押ししていたものも含まれ、その見直しについて議会として唯々諾々と認めるわけにはいきません。
しかし、そこで議論すべきは、施策事業それぞれの要不要ではありません。
確認しなければならないのは、残すこととされたものと見直すこととされたものの優先順位の考え方。そのベースには「どんなまちを目指すのか」という将来像の共有がなければなりません。
議員の皆さんは、関心のある個別の施策事業の要否についてはたくさんの意見をお持ちで、議会での質問も多数いただきます。
しかし、施策事業の優先順位やトータルでのまちづくりのデザインについて当局を質(ただ)し、その根拠となる考え方を明らかにさせるということは十分ではないように感じています。
持続可能な自治体運営を行い後世に「いいまち」を残すために「どんなまちを目指すか」、そのために「何を優先すべきか」という俯瞰(ふかん)の議論に期待したいと思います。
