2025.11.10 ICT活用・DX
第3回 議会質問の効率化
注意点と限界
メリットが多いAIの活用ですが、一方で注意点もあります。この点を理解しておかないと、かえってマイナスの結果となるリスクがありますので、ここで解説していきます。
(1)AIの価値は「正確さ」ではなく「整理力」にある
AIは非常に便利で頼れる存在ですが、その出力を「常に正しい情報」としてそのまま受け取るのは危険です。AIは、膨大な情報をもとに「それらしい答え」を導き出す仕組みであり、時には事実と異なる情報を含むこともあります。つまり、AIの強みは「正確さ」ではなく「情報を整理し、理解しやすくまとめる力」にあります。
したがって、AIが出した回答をそのまま採用するのではなく、「整理された仮説」として扱う姿勢が重要です。議会質問や政策立案では、最終的な判断を下すのはあくまで議員自身です。AIが示した情報を手がかりに、行政資料や統計データ、専門家の見解などで裏付けをとり、内容の信頼性を確保することが欠かせません。AIを「答えをくれる存在」ではなく「考える材料を整理してくれる存在」として活用することが、賢い使い方といえるでしょう。
(2)AIは地域の文脈を知らない
もう一つの限界は、AIは「地域の空気や文化を理解できない」という点です。ChatGPTは世界中の情報を参照できますが、「この町」、「この町の住民」、「この町の議会」の文脈までは知りません。だからこそ、AIが出した内容をそのまま使うのではなく、「自分の地域ではどうなのか」という視点で上書きすることが不可欠です。
例えばAIが「高齢者支援の課題は人手不足」と答えても、自分の町では「交通手段」や「見守り体制」の方が深刻かもしれません。AIが示した一般的な整理をもとに、現場の声や地元のデータを補うことで、初めて質問が完成します。AIは道具であり、地域の現実を語れるのは、現場に立つ議員だけだということに留意しておきましょう。
(3)「自分の言葉」で語ることが信頼を生む
AIを活用すれば、質問文の構成や表現を整えることは簡単になります。しかし、どんなに文章が整っていても、そこに「自分自身の言葉」がなければ、住民の心には響きません。議会質問は、単なる発表ではなく「議員としてどう考え、どう感じているか」を伝える場です。AIがつくった文章に頼りすぎると、言葉に温度が失われ、形式だけの質問になってしまうおそれがあります。
AIをうまく使う議員ほど、最後に自分の言葉で語る時間を大切にしています。AIがつくった原稿を読み直し、「この一文は自分の声で言い切れるか」、「住民の目線から見て伝わる言葉になっているか」と問い直す。それが、AI時代における議会質問を実現する最も重要な点です。
AIは、議員の仕事を代わりに行う存在ではなく、議員が本来の力を発揮するための補助輪のようなものです。正確さは人間の確認で補い、地域性は議員自身が反映し、最後に自分の声で語るという三つを意識することで、AIは最良のパートナーになります。
AIを活用して議会質問をより良いものにしていきましょう
議会質問の準備というのは、表には見えない地道な積み重ねの連続です。テーマの整理、情報収集、原稿づくりや答弁想定など、どれも時間がかかり、頭を使い、体力を消耗する作業です。これまでは「努力と根性」で乗り越えるしかなかったこの工程に、AIという新しい味方が現れました。ChatGPTを上手に使えば、質問準備の流れを大幅に効率化できます。
AIに問いかけながらテーマを整理し、たたき台を出してもらい、視点を変えて書き直し、想定問答で深めていく。そうした一連のプロセスを繰り返すうちに「自分なりの質問づくりのスタイル」が自然と確立していきます。ですが、AIが整えてくれるのは、あくまで土台です。その上に、自分の経験、地域の課題、そして住民への思いを重ねることで、質問は「資料的な発言」から「伝わるメッセージ」へと変わります。
議会質問は、正確さだけでなく温度が問われる場です。AIの助けを借りつつも、最後に磨きをかけるのは人間の感性です。AIが整理し、人が魂を吹き込むという共創のプロセスこそ、これからの議員活動の新しい形といえるでしょう。
次回は「議員広報とAI」をテーマに、SNS投稿やニュースレター、議会報告書など、情報発信の現場でAIをどう活かせるのかを具体的に紹介します。限られた時間で、より多くの住民に思いを届けるために、AIができることを一緒に探っていきましょう。
