2025.09.10 ICT活用・DX
第1回 AI時代の議員活動とは?
AIを使う上で大事な視点
AIは非常に便利で、うまく使えば議員活動を強力に後押ししてくれる存在です。しかし、その便利さに引きずられてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあります。ここでは、特に地方議員が押さえておくべき三つの視点を整理しておきましょう。
(1)最終判断は人間が行う
まず強調しておきたいのは、AIが出してくる答えはあくまで「参考意見」であって「絶対的な正解ではない」ということです。AIは膨大なデータをもとに回答を生成しますが、その中には誤った情報や古い情報が含まれることもあります。ときには自信ありげに「もっともらしい誤答」を返すことさえあるのです。
例えば、議会質問の準備でAIに統計データを尋ねたとしましょう。表面的には正しいように見えても、出典が不明確であったり、すでに改定済みの古い数字であったりする可能性があります。そのまま使ってしまえば、議会の場で「その数字は誤りだ」と指摘され、議員としての信頼を大きく損なうことになりかねません。
したがって重要なのは、AIを「便利な補助役」として位置付け、最後の判断は必ず自分自身が行うという姿勢です。議員にしかできないのは、「情報を咀嚼(そしゃく)し、住民の声や地域の実情を踏まえて結論を出すこと」です。AIはその土台を整える存在であって、責任を肩代わりしてくれるものではありません。議員活動の最終責任は、常に人間である議員自身にあるのです。
(2)住民に説明できるようにする
AIは便利だからといって、出てきた答えをそのまま行政や住民に提示してしまうと、「この議員はAIに丸投げしているのではないか」という不信感を招きかねません。
例えば、住民からの要望に対してAIでまとめた施策案を示す場合、「これはAIが自動的につくった答えです」と伝えるだけでは不十分です。「AIにこういう条件を入力して整理させた。その上で、自分なりに地域の事情を加味してこの結論に至った」というプロセスを説明できて初めて、住民は安心して議員を信頼するのです。
AIを活用していること自体は悪いことではなく、むしろ先進的で歓迎される場合もあります。しかし、「どう使ったのか」、「どの部分は自分の判断なのか」を明確に示すことができなければ、信頼は築けません。AIの便利さを活かしつつ、自らの責任を住民に説明できる姿勢こそが、これからの議員に求められる資質だといえるでしょう。
(3)情報の漏えいに注意する
便利さの裏に潜むリスクとして挙げられるのが、「情報漏えい」です。AIに入力した内容は、サービスによっては外部に保存されたり、学習データとして利用されたりする場合があります。そのため、住民の個人情報や未公開の政策資料、あるいは議会内でまだ公開されていない調査内容をそのまま入力するのは非常に危険です。
例えば「相談に来た住民の名前や住所を含んだ要望文書」を丸ごとAIに投げ込むことは厳禁です。また、「まだ公表していない予算案の詳細」や「議会内での非公開資料」も入力してはいけません。これらは、外部に流出すれば住民との信頼関係を一瞬で壊してしまい、議員生命に関わる大問題になりかねません。
安全にAIを利用するためには、「外に出ても問題のない情報だけを入力する」という原則を徹底することが重要です。もし機微な内容を扱う場合は、オフラインで利用できるAIやセキュリティ対策が明示されたサービスを選ぶ必要があります。AIを活用することは積極的に推進すべきですが、その裏に潜むリスクを理解し、常に情報管理の責任を忘れないことが欠かせません。
AIは議員活動を支える強力な味方になり得ます。しかし、その力を正しく引き出すためには、「最終判断は議員自身が行う」、「住民に説明できるように使う」、「情報漏えいに細心の注意を払う」という三つの視点が欠かせません。これらを守ることで、AIは単なる便利ツールではなく、住民からの信頼を強化する“議員の新しいスタッフ”として機能するようになるのです。
議員本来の役割に専念できるようにAIを積極活用しましょう
AIは「自分には縁のない難しい最先端技術」ではありません。むしろ、忙しい議員の日常を陰で支えてくれる便利な道具です。分厚い資料を短時間で要約してくれる秘書のように、必要な情報を整理して示してくれる参謀のように、そして行政の言葉を住民に伝わる表現へ置き換えてくれる翻訳者のように、AIは議員活動において強力な味方となり得ます。
しかし、その便利さに頼り切ってしまうのは危険です。AIの答えには誤りが混じる可能性があり、「どのように使ったか」を住民に説明できなければ信頼を失うおそれもあります。また、入力する情報の扱いを誤れば、重大な情報漏えいにつながるリスクも存在します。だからこそ、AIを「補助スタッフ」として適切に位置付け、最終的な判断と責任は自らが負うという姿勢が求められるのです。
AIは議員の仕事を奪う存在ではなく、議員が本来果たすべき役割である「地域の未来を見据えて判断し、責任を持って住民に伝える」という仕事に専念できるよう支えてくれる存在です。今後の議員に問われるのは、「AIを使うかどうか」ではなく「どう正しく活かすか」なのです。
次回は「ChatGPT活用術」と題し、実際に議員活動の現場でどのようにAIを取り入れればよいのかを、分かりやすいステップ形式で解説します。AIに詳しくなくてもすぐに実践できる方法を紹介しますので、ぜひご期待ください。
