AIは議員にとってどのような存在になり得るか

　まずは、AIが議員にとってどのような存在になり得るかを紹介していきましょう。

（1）秘書のような存在
　地方議員の活動は「調べ物」や「書類整理」に多くの時間を奪われがちです。分厚い行政資料を読み込む、長い議事録を確認する、提出文書をまとめるなど、どれも大切ですが、同時に本来は政策判断や住民対応にもっと時間を割きたいと考える議員は少なくありません。
　AIはこうした作業を一気に肩代わりしてくれます。長い資料を短時間で要約したり、会議の音声を自動で文字起こしして整理したりすることが可能です。しかも人間の秘書と違って、夜中でも休日でも文句をいわずに働いてくれるのがAIの強み。つまりAIは「24時間働いてくれる優秀な秘書」として、議員の時間をつくり出してくれるのです。

（2）参謀のような存在
　議員に「教育が得意でも福祉は苦手」、「農業は詳しいが医療には疎い」など、それぞれに得意分野と苦手分野があるのは当然のことです。しかし、住民からの要望や議会での議論は分野を選びません。それにもかかわらず、すべてに答えられるだけの知識を身につけるのは現実的に難しいのです。
　そんな場合はAIを「参謀」として活用できます。例えば「農業用水路の整備課題」について尋ねれば、AIは基本的な問題点や他自治体の取組みを示してくれます。さらに、「住民に説明できるよう、中学生でも分かる言葉で」と指示すれば、かみ砕いた解説も提示してくれます。AIは専門分野を超えて知識を補完し、議員に最低限の判断材料を提供してくれる存在であり、「苦手分野を支えてくれる参謀」として活用できます。

（3）翻訳者のような存在
　議員の仕事で意外に大きな負担となるのが、行政の専門用語を住民に伝わる形に変換する作業です。行政文書は多くの場合、法律的な表現や行政独特の言い回しが多く含まれており、読み慣れていない人にとっては非常に理解しづらいものです。
　こうしたときに、AIは「翻訳者」として力を発揮します。AIに行政文書を入力すると、複雑な言い回しを住民に伝わる平易な表現に書き換えてくれます。例えば、「財源の持続可能性を担保」という表現は、多くの人にとって抽象的で難解です。しかしAIにかかれば、「町のお金を長く安心して使えるように工夫すること」といった形で、誰でも理解できる日本語に翻訳してくれるのです。つまりAIは、政策の中身を変えることなく、その「伝わり方」を変えてくれる存在なのです。

　この三つの役割を意識するだけで、AIは決して遠い存在ではなく、議員活動を日々支えてくれる身近なスタッフであることが理解できるはずです。AIは、まず「秘書」として議員の時間を取り戻し、煩雑な事務作業から解放してくれます。さらに「参謀」として、苦手な分野を補い、幅広い知識や視点を提供してくれる頼れる相談役になります。そして「翻訳者」として、行政の専門用語を住民の言葉に変換し、政策や施策を分かりやすく伝える手助けをしてくれます。
　AIは「特別な技術」でも「自分とは無縁の機械」でもありません。むしろ議員活動において欠かせないスタッフの一員として機能し得る存在です。どの役割をどの場面で組み合わせて活用するかによって、議員の仕事の質や住民との信頼関係は大きく変わっていくでしょう。これからの時代、AIをどう位置付け、どう活かすかが、議員の資質を左右する重要なポイントになるのです。