2025.05.12 コンプライアンス
第12回 職員に対するハラスメントの大半に関与した議員の氏名公表
A県B市の議員向けアンケート
(1)本事案の概要
A県B市では、2024年7月に職員向けに定期実施しているハラスメントに関する匿名アンケートで、「議員からハラスメントを受けた」という結果が出ました。この結果を受けてB市議会では、2024年11月に所属する全議員が参加するハラスメント防止研修を実施したものの、状況は改善しませんでした。2025年2月に、市側は研修後もなお職員に対するハラスメントがあるとして、市長から議長宛てに改善の申入れがなされ、同月、実態調査が行われて記名式の職員アンケートが実施されました。
このアンケートでは、ハラスメント行為を行った議員が6人挙げられ、合計88件のハラスメントがあったとの結果が出ています。そして、この88件のハラスメントのうち53件が1人の議員によって行われていたことが明らかになりました。
議会内では、この結果を受けて4月7日に全員協議会を開催。「被害申告の半分以上を1人が占めている実態は見逃せない」として、最もハラスメント行為の多かった議員の氏名を公表することとなりました。
(2)アンケート結果の分析
B市議会では、2024年11月に議員を対象としたハラスメント防止研修を実施したものの、議員によるハラスメント行為が改善されませんでした。そこで、2025年2月に市長から議長へ改善の申入れがなされ、再びアンケート調査を行うこととなりました。再調査では、6人の議員によるハラスメント行為が指摘されました。このアンケートのうち、主な内容について解説していきましょう。
〈設問:ハラスメントの内容及び議員名(複数回答可)〉
この設問により、B市議会では6人の議員のハラスメント行為が明らかになりました。特に多数のハラスメント行為について報告された「イ」の議員(以下「C議員」といいます)は、計88件のハラスメント行為のうち53件を占めており、C議員のハラスメント行為が問題であることが明らかになりました。
C議員については、同アンケートの自由記述欄でも具体的に被害が記載されていますので、その一例を見ていきましょう。
・連絡の不手際があった際、わざとやったと決めつけ、何度も大声で怒鳴られた。
・公共施設の管理について、自分の身内が利用する予定があるからと、承諾をするまでしつこく頼まれた。
・来庁して資料の提供を要請され、その場で関係資料を用意していた職員へ「話を聞け」との高圧的な発言。
・「次の議会では徹底的にやっつけてやる」、「覚悟しておけ」との発言。
・市民から頼まれたことを市が受け入れるまで、職員を個別に呼び出して責め立てる(職員がつぶれるまでやってやる等の発言)。
・議員に説明しているときに、部下の説明が気に入らず激高してその場を去った。部下は悔しそうだった。
・所掌事務以外のことであると分かった上で30分以上話をされた。
・他課の事業のことについて長時間話し相手をさせられた。
・入札に関して市が業者に求めている資料以上のものを要求。
また、これらの行為について、ハラスメントを受けたことがある職員30人に「ハラスメントに対し、どのような対応をしましたか?(複数回答可)」と調査したところ、以下のような結果となりました。
〈設問:ハラスメントに対し、どのような対応をしましたか?(複数回答可)〉
・議員に抗議した……0件
・上司・同僚に相談した……12件
・総務課や議会事務局に相談した……3件
・しばらく仕事を休んだ……0件
・何もしなかった……16件
・その他……6件
本アンケートでは、さらに「何もしなかった」を選択した人に「何もしなかったのはなぜですか?(複数回答可)」と調査したところ、以下のような結果が出ています。
〈設問:何もしなかったのはなぜですか?(複数回答可)〉
・業務に支障が出ると思った……4件
・議員を刺激してはさらにエスカレートすると思った……10件
・職場での立場が悪くなると思った……1件
・何をしても解決しないと思った……9件
・どこへ相談したらよいか分からなかった……0件
・我慢し、諦めるしかないと思った……9件
・行動するほどのことではないと思った……2件
行政職員を対象としたハラスメント調査では、このような回答になることは珍しくありません。職員と議員の力関係が明確であることから、ハラスメントに対して状況が悪化することを懸念して「何もしなかった」という回答が多くなるのが特徴です。今回の調査は、C議員を念頭に置いたかのように、回答に「議員を刺激してはさらにエスカレートすると思った」という選択肢が用意され、「議員を刺激すると問題が悪化する」という職員の懸念を可視化した点で特徴のあるアンケートだといえます。