2025.04.10 医療・福祉
第6回 老人ホーム施策に老人当事者の声は反映されているか(前編)
なぜ紹介事業者が必要とされるのか
先にも触れたように、入居紹介事業を行う上では、特に法的な制限はなく、資格なども必要とされません。そのため、その数は年々、うなぎ上りに増加しています。
私が従事する地域包括支援センター(以下「包括センター」といいます)にも、紹介事業者の営業が、「有料ホームを希望する高齢者を紹介してください」と頻繁に売り込みに来ます。
もっとも、紹介事業者が登場したのは、介護保険が始まる2000年よりも前の話ですが、以前はそれほど多くはありませんでした。しかし、有料ホームの増加と比例して、紹介事業者も増加してきているのです。
では、そもそも、なぜ紹介事業者なるものが存在するのかといえば、入居するための有料ホームを高齢者やその家族が探そうとしても、数が多すぎたり、インターネット上の情報を見てもよく分からないためです。
「包括センターやケアマネジャーは教えてくれないのか?」という疑問もあるかもしれませんが、それも簡単なことではありません。
有料ホームなどの数が少ない地方などでは、包括センターやケアマネジャーが情報を教えてくれるかもしれませんが、東京都特別区ではかなり難しいのではないかと感じます。
というのも、有料ホームの数が多すぎるし、実際にそれら有料ホームの内情を客観的に示す情報が存在しないため、安易に回答できないのです。
例えば、包括センターには様々な有料ホームから営業の資料が送られてきますが、それで分かるのは大まかな料金や職員体制、設備ぐらいです。そのほかにリハビリや食事、設備などの面をPRしようとするものもありますが、たったそれだけの情報で、その有料ホームが良いか悪いかを判断することは不可能です。
特に有料ホームというのは、単なる住まいではなく、介護職員や他の入居者と毎日生活をしていく場所です。利用する老人がどのような老人であるのかも分からないのに、適切なマッチングなどできるはずもありません。さらに、有料ホームは高額な場合が多く、気に入らないからといって簡単にほかへ移ることもできないため、適当なこともいえません。それが、より口を堅くさせる要因となります。
一方で、家族の介護力が以前より低下していることもあり、自宅で過ごすことができず施設に入らざるを得ない老人は増加の一途ですし、比例して有料ホームも増えています。
こうした状況を背景として、有料ホーム探しに紹介事業者が介在する余地が生まれます。
以上、有料ホームと紹介事業者の存在する背景の概観を追いました。そして、本原稿を執筆しているさなか、次期介護保険制度改正に向けて、これら諸問題に対する「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(仮称)」が厚生労働省に設置される報道がなされました(シルバー新報 2025)。
それら議論に資するよう、次回、後編では、有料ホームや紹介事業者の問題をさらに深掘りし、制度のあり方などに疑義を投げかけたいと思います。
※本稿では「高齢者」と「老人」という表記が一部、混在しています。これについて、厚生労働省は平成初頭までは「老人福祉法」といったように「老人」という表記を積極的に使用してきました。しかし、少子高齢化問題が表面化してきた頃から「老人」よりも「高齢者」という表記を多用するようになります。それは、福祉の対象であった「老人」が増えすぎたため、制度を介護保険という社会保険制度に変更する上で、「福祉を必要としない老人」の存在も踏まえ、より大きな範疇(はんちゅう)を意味する「高齢者」という表記への転換を図ったのではないかと考えています。しかし、現行でも「老人福祉法」、「介護老人福祉施設」というように、支援の必要性の高い高齢者に対しては「老人」表記を残していると思われ、本稿でも(報道表現などを除き)意図的に「老人」表記を用いています。
■参考資料
◇公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会(2025)「2月17日の朝日新聞朝刊の掲載を受けての実態調査の結果について(第一報)」(https://www.jaswhs.or.jp/news/news_detail.php?@DB_ID@=1878)
◇高齢者住まい事業者団体連合会(2025)「入居紹介手数料の二重払いの実態とリスクについて」(https://koujuren.jp/pdf.php?menu=news&id=110&n=3)
◇厚生労働省(2025a)「福岡大臣会見概要」(https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00776.html)
◇厚生労働省(2025b)「地域包括ケアシステムにおける高齢者向け住まいについて」(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001447747.pdf)
◇シルバー新報(2025)「住宅型有料やサ高住 不適切運営の対策を検討」(https://silver-news.com/blog/detail/2591)