2025.03.10
第23回 無戸籍の子ども等が戸籍をつくるには
弁護士 中川洋子
無戸籍の子ども等が戸籍をつくるには。
1 無戸籍者問題
無戸籍の子どもが生じる背景に、民法の嫡出推定の規定(772条)が関係している。この規定は、女性が夫との婚姻中や元夫との離婚後300日以内に子を出産した場合、夫又は元夫が子の父と推定されるというものであるが、ほかに血縁上の父が存在することなどを理由として、子を出産した女性が出生の届出をせず、子が戸籍に記載されないことがある。
無戸籍者問題は、国民としての社会的な基盤が与えられず、社会生活上の不利益を受けるといった人間の尊厳に関わる重大な社会問題である。
2 制度的対応
このような無戸籍者問題を解消する観点から、嫡出推定制度の見直し等をした「民法等の一部を改正する法律」が令和4年12月10日に成立し、令和6年4月1日から施行された。
改正法では、婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定するとの原則は維持しつつ、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定するとの例外を設けた。併せて、女性の再婚禁止期間を廃止した。
さらに、嫡出否認権を夫のみならず子及び母にも認め、嫡出否認の訴えの出訴期間が1年から3年に伸長された。
3 行政上の取組み
行政機関においても、子の出生前から無戸籍解消に至るまでの継続的な手続支援として、以下のような対応を行っている。
(1)市区町村の窓口等から得られた情報で各法務局において無戸籍者の情報を把握
出生の届出が遅れている子、現に無戸籍である者について関係機関等(児童相談所、家庭裁判所、法テラス等)と連携し幅広く情報収集する。
(2)把握した情報に基づき、無戸籍者の母親等に寄り添った支援を実施
無戸籍解消に至る一連の手続に法務局等の職員が同行・支援し、当事者の負担を軽減する。
裁判費用等の相談があった場合には、法テラスで民事法律扶助制度について案内し、市区町村等の地元機関と協力して、無戸籍者への手厚い手続支援を行う。また、民法改正の趣旨を踏まえ、無戸籍者等が適切に否認権を行使できるよう支援する。
(3)上記(1)・(2)に資するための関係機関との連携
法務省において、無戸籍者ゼロタスクフォース会議を開催し、関係省庁等と密接に連携するとともに、各法務局において、関係機関と協議会会議を開催し、密接に連携する。
4 無戸籍者の戸籍作成方法
実際に無戸籍の子どもが戸籍をつくるためには、以下のような法的手続を行う必要がある。
(1)母等が、子を戸籍に記載するための手続
嫡出推定が及ぶ子につき、(元)夫を父とする記載の場合、(元)夫を父とする出生届を提出する。
しかし、嫡出推定が及ぶ子の場合で、(元)夫を父とする記載の出生届を提出しないときは、法的手続をとることになる。具体的には、①嫡出否認の手続、②親子関係不存在確認の手続(対(元)夫を相手とするもののうち、例外的に嫡出推定が及ばないケース)又は③強制認知の手続(血縁上の父を相手とするもの)をとり、家庭裁判所の調停及び審判を経てから、市区町村に対し就籍届を提出する。
一方、嫡出推定が及ばないいわゆる非嫡出子の場合は、自動的に母親の戸籍に入るため、出生の届出を行うことにより、父親が空欄となった戸籍が作成されるので、家庭裁判所の調停及び審判を経ることは必要ない。
(2) 無戸籍者本人(子)が、戸籍に記載するための手続
無戸籍者本人が申請を行う場合で、母の元夫を父とする戸籍の記載を求めるときは、出生証明書や母子健康手帳など、母子関係があることを証する書面を法務局に提出し、法務局において調査が行われる。
その結果、法務局において母子関係があるとの認定をすることができると判断された場合は、無戸籍者本人が法務局に対し「出生事項記載申出書」を提出し、法務局は、元夫の本籍地の市区町村に当該申出書を送付する。
送付を受けた市区町村は、母に対し、出生の届出をするよう二度の催告を行う。それでも出生の届出がされない場合や、母が死亡し、又は所在不明になっていることから催告をすることができない場合には、元夫の本籍地の市区町村長において、法務局長の許可を得た上で、職権で無戸籍者を元夫の戸籍に記載する。
一方、母の元夫を父としない戸籍の記載を求めるときは、①強制認知の手続(血縁上の父を相手とするもの)、②親子関係不存在確認の手続(対(元)夫を相手とするもの)をとり、家庭裁判所の調停及び審判を経てから、市区町村に対し就籍届を提出する。
(3) 父母空欄の無戸籍者の新戸籍を編製するための手続
なお、父母の戸籍が見つからないケースや記憶喪失等により父母が誰か全く分からないケースなど、父及び母が誰か分からない場合には、家庭裁判所の許可(就籍許可)により、本籍を有しない者について本籍を設け、戸籍に記載することができる。この手続には相手方はなく、調停を経る必要もない。就籍許可の審判を経た上で、無戸籍者が市区町村の戸籍窓口に就籍届書及び裁判書の謄本を提出すると、無戸籍者の新戸籍が編製される。この場合、無戸籍者は許可された氏(通常は通称)を称し、その父母欄は空欄となる。