2025.02.25 仕事術
第29回 どうする自治基本条例②
最高規範性は基本的規範に変更
続いて、本則です。
2条については、最高規範性について表現を弱めていくという方向で修正を行いました。見出しは「最高規範性」から「この条例の位置付け」に修正しました。条文も「本市の自治に関する基本的規範」と位置付け、最高規範という文言は外しました。最高規範という文言にこだわった市民からの意見もありましたが、規定したからといって、直ちに最高規範性が確立するものでもないので、あえて外しました。
3条は、定義規定です。他の条例との整合性からいって、市民の定義を拡大すると混乱が生じること、「働く者、学ぶ者」については「市民等」で定義しているため、市民の定義を限定化しました。
「市民等」については、市民を本市に住んでいる者と定義したので、「働く者、学ぶ者」については「市外在住者」という表現を付け加えました。
「まちづくり」については、漢字で表現されている「街づくり」との区別の必要性と、まちづくりと市政との関係を明確化させるために、「まちづくり」と「市政」の2語の定義を付け加えました。
10条、11条については、所沢市議会では議会基本条例が制定されているため、議会基本条例と重複する内容の条文は削除しました。
18条は、いまだ成文化されていない市民参加条例をあえて条文として独立させて記述するものでしたが、その必要性が低いため、20条(市民参加条例)を削除して、本条(参加の推進)4項に「参加に関し必要な事項は、別に条例で定めます」としました。その後、市民参加条例については、平成26年に全17条からなる「所沢市市民参加を進めるための条例」として制定・公布されました。
外国籍住民の住民投票への参加案は削除
原案22条、修正案21条については、外国籍市内在住者に対する住民投票の権利の付与は時期尚早と思われるため、該当箇所の外国人登録原票の部分を削除し、外国人の住民投票については規定しないこととしました。この部分は、パブリックコメントを実施した際に最も意見が多かった部分です。もちろん全て反対意見です。
ここで、住民投票条例について少し説明を加えます。住民投票条例は、あらかじめ住民投票の発動要件を条例で定めておく「常設型」と、何らかの住民投票の必要があった際に都度条例を制定する「個別型」に分類されます。いずれにせよ条例制定に当たっては、住民投票可能な住民の範囲を定めます。この範囲に神奈川県逗子市や大阪府豊中市のように外国籍の住民を加えている事例もあります。結果的にこの条文があったことで、後に、所沢市では住民投票が実施されることとなります。この点については別途報告します。ちなみに、住民投票の発動要件は以下のとおりです。
(住民投票)
第21条 市長は、次の各号のいずれかに該当するときは、住民投票を行わなければなりません。
(1) 年齢満18歳以上の本市の住民基本台帳に記録されている者で日本国籍を有するものが、その総数の5分の1以上の者の連署をもって住民投票の請求を行ったとき。
(2) 市議会が、出席議員の過半数の賛成により住民投票の実施を議決したとき。
(3) 市長が、市政運営に関する特に重要な事項について、住民投票が必要であると判断したとき。
2 市民等、市は、住民投票の結果を尊重しなければなりません。
ちなみに、制定当初の1項1号の年齢要件は20歳以上でしたが、公職選挙法改正に伴い18歳以上に改正しました。
意見提案手続、公聴会を経て制定へ
議会修正条文案が整ったため、意見提案手続及び公聴会の開催準備に入りました。
意見提案手続には、29人から133件の意見が寄せられました。寄せられた意見については、議会報告会までに意見を聞き、その後、委員会における意見調整を行った上で、意見への回答については、議会報告会が終わった後に議論することとしました。先述したように、ほとんどの意見が外国籍住民の住民投票への参加についての意見でした。
公聴会については、9人の方から公述人の申出がありました。選考の結果、9人の方全員に公述人として意見を述べていただくこととなりました。
公聴会は基本的に1人30分ごととし、はじめに公述人の方から15分程度意見を伺い、その内容及び提出された論文について公述人に対する質疑を実施しました。
平成23年1月26日、所沢市自治基本条例議会修正素案に対する公聴会を開催しました。公聴会には9人の方が参加。5人が修正案に反対、4人が賛成の立場でした。公述人の公述は主に、①議会修正素案に対する前文について、②最高規範性について、③信託・負託について、④議会条項について、⑤外国人の住民投票参加について、⑥基地条項について、⑦自治基本条例推進委員会について、それぞれ修正に対しての再考を促す意見が中心でした。
同年2月5日には、所沢市自治基本条例特別委員会による議会修正素案についての議会報告会を全員協議会室で開催し、41人の市民の方の参加をいただきました。最初に、委員長から、これまでの特別委員会の議会修正素案提案までの経緯を、副委員長からは、議会修正素案についての説明を行い、その後、参加者との意見交換を行いました。意見交換においても、上記①〜⑦がやはり中心的な話題となりました。
同月7日に第11回目の委員会を開催し、公聴会や議会報告会で寄せられた意見の集約を行いました。その結果、前文についてを除く②〜⑦の6点に加えて、ある委員から提案のあった市の定義を加えた7点を論点とし、改めて会派に持ち帰り、議会修正素案の再修正について検討していただくこととなりました。
同月15日に第12回目の委員会を開催し、各会派からの再修正についての意見を求めたところ、ある委員から、ほとんど原案に戻すべきだという意見が出され、特に、最高規範性と市の定義については、原案に戻していただきたいとの強い意向が示されました。
当該委員からは、「最高規範性については、最高規範でないものを議会が修正して、最高規範をつくるために最高規範たるべくとすること自体が異常だと思う。自治基本条例というのは、より完成度の高いものを出すというのが原則である。また、市の定義については、市民と話をしていると、なぜ市と市議会が同じなのかという極めて単純な質問が出てくることがある。市民の受け止め方としては、市の存在は行政府でもって市の行政機関であり、市議会は別の機関だという理解をしている。それをあえて一つにしなければならない必然性がなぜ出てきたのかが理解できない。『市及び市議会』では間違いだと否定できるものでもないはずであり、おかしいと思う」などの意見が表明されました。
採決の結果、平成22年議案第72号に対する修正案については、全会一致、可決すべきものと決しました。また、修正案を除く部分については、全会一致、原案のとおり可決すべきものと決しました。全会一致による可決には、委員長としては最もこだわりました。最高規範という文言を条文に書き込むことより、事実として全会一致で可決することの方がより条例の権威を高めると考えたからです。