2024.12.10 コンプライアンス
第8回 ハラスメント防止条例に基づく加害議員の氏名公表
A県B村議会のC議員・D議員によるハラスメント防止条例違反
今回のケースは、A県B村議会のC議員とD議員による条例違反の事案です。両議員は、2023年に同村で発生した議長(当時)の傷害事件を受けて制定された「ハラスメント防止条例」を立案した際の中心人物で、ハラスメントに関する知識を有しています。そんな二人がハラスメント防止条例違反を起こした経緯を解説していきます。
(1)本事案の概要
A県B村議会E議員は、2022年の村議選に立候補するに当たり、「給食センター建設反対」というC議員の方針に賛同して「給食センター建設反対」を公約とし、C議員の後援会の推薦を受けて無投票当選しました。
しかし、E議員が当選後に「給食センター建設反対」を撤回し、賛成したことから、C議員は「公約違反である」と長期間に複数回にわたり批判しました。また、C議員に同調するD議員は、2023年末に行われた研修での宴席でE議員を一方的に叱責し、その上、容姿をからかう発言を繰り返したとされています。
E議員は、2024年9月に一連の行為がハラスメントに当たるかについて審査を申し立て、議会は審査委員会を開催。4回の審査を経て11月25日にC議員とD議員の行為をハラスメントと認定。同村議会のハラスメント防止条例の対応措置としては最も重い「氏名公表」の措置がとられることになりました。
この決定を受け、D議員は審査結果を全面的に受け入れて謝罪しましたが、C議員は審査結果を不服として謝罪を拒否。今後、B村ホームページで両議員の氏名が公表される予定です。
(2)本事案の問題点
本稿執筆時点(12月2日)でC議員はハラスメント審査委員会の審査結果を認めていません。C議員は審査結果の通知を受けて記者会見し、「問題は公約違反」、「ハラスメントの結論は事実無根で誠に遺憾」、「誹謗(ひぼう)中傷は一切していない」、「条例の悪用による誤った認定」といった反論をしています。4回に及ぶ審査を経てなお自らの行為は問題ないと考えているようです。
ハラスメント防止条例制定の中心人物だった以上、ハラスメントに関する知識は持ち合わせていると考えられますが、「公約違反」という政治的裏切り行為が発生した際に感情的な反応を示しています。自分の後援会が推薦した人物が自分を裏切るという行為は、確かに批判の対象となり得ますが、だからといってハラスメントが許されるわけではありません。
C議員の「公約違反は許せない」という主張は、一見すると正しいように感じられます。事実、E議員が当選後に公約を翻した点については、今後の民意が判断することは間違いありません。しかし、「公約違反は許せない」という「行き過ぎた正義感」を振りかざし、必要以上に相手を攻撃することは、ハラスメントといえるでしょう。このような「行き過ぎた正義感」は近年大きな問題となりつつあります。この「行き過ぎた正義感」が本事案最大の問題といえます。
近年、特にインターネットを中心に「正義や道徳を逸脱した行為」を過剰にたたく風潮が強くなっています。「行き過ぎた正義感」からくるハラスメント行為をする人は「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア(社会正義の下に戦う人)」と呼ばれ、様々な失敗を犯した人を容赦なく糾弾します。この呼称には揶揄(やゆ)的な意味が込められており、独善的に行動している人だという評価をされるケースも珍しくありません。
彼らはどのような悪質な行為であっても「自分の行為は社会正義のためにやっている」と認識しており、自らの行為が誤っているとは認めません。今回のC議員のハラスメント行為はまさに「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア」の典型的な例です。彼らは「間違った行為をした人間は罰を受けて当然」という加害性を持っているため、第三者から見たら「やり過ぎではないか」と思われる行為も、「この程度は当然のこと」と平気で行います。むしろ、より強い加害行為を行うことが「社会秩序を守ることにつながる」と考え、加害行為はエスカレートしていきます。C議員も長期間にわたり執拗(しつよう)に「公約違反」を追及していることから、「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア」の状態になっていると判断できます。
(3)原因と対策
C議員は自らの行為よりも「問題は公約違反」と主張しており、典型的な「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリア」です。この状態に陥る人は、「自分の言動は社会的正義のために行っている」と全ての言動を自己正当化しますが、この自己正当化は「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」が原因です。
「議員は公約を守るべき」は正しい主張だとしても「公約を守らない議員は徹底的に批判されるべき」と考えるかどうかは人それぞれです。特に正義感の強い人は、場合によっては行き過ぎた正義感によって過剰に相手を攻撃しますが、まさにこの「正義感」が「アンコンシャス・バイアス」といえるでしょう。
「アンコンシャス・バイアス」は、正義感が強い人の場合、強い攻撃性を伴うようになるため、まずは本人が自分の中にある正義感が暴走してしまう可能性や、暴走した場合のリスクを理解する必要があります。