地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2024.09.25 仕事術

第25回 どうするモンスター住民②

LINEで送る

古紙回収グループは学校開放委員会も支配

 古紙回収を熱心に行っているAさんグループの顔ぶれを見ると、地区内の二つある学校開放で中心的な役割を果たしている人が参加していることにも気づきました。私の住んでいた地区では、I小学校とJ小学校の体育館とグラウンドが、学校開放の対象でした。
 I小学校のグラウンドをほぼ独占的に使用していたのが、地元の野球チームでした。この野球チームで長老として差配していたKさんと、J小学校のグラウンドを利用していた高齢者のソフトボールチームのまとめ役Lさんも、Aさんグループの古紙回収で中心的な役割を果たしていました。本来であれば、学校開放はおおむね月ごとに利用時間と場所が決定されますが、KさんとLさんの団体は、例えば毎週土曜日の午前は独占的に利用するなど、定例での利用が許されていました。また、J小学校の体育館は、Aさんの武道系競技団体が市の武道場を使えない場合にも使われていました。
 私の息子が一時期、Aさんの武道系競技団体に加入していたので、J小学校で練習を実施する機会に出くわしたことがありました。一般的に、小学校の体育館は板張りです。Aさんの武道系競技は畳が必要でした。どうするかといえば、舞台の両袖にある体育用具室に積んである畳を取り出して体育館に並べるのです。
 議会選出監査委員のときに、学校監査でこの点について問い合わせたところ、学校としては、建前は、この畳はAさんグループだけでなく、学校の備品として管理しているとの主張でした。では、この畳はどこから持ってきたかといえば、武道場改築時に廃棄予定だった畳を持ち込んだとのことでした。なぜそんなことが許されるかといえば、Aさんが地区の学校開放委員会の委員長であったからです。廃棄予定の畳も正当な手続にのっとらずに入手していたようです。
 所沢市では、学校開放の利用者の割り当ては原則、学校開放委員会が取り仕切ることになっています。委員長だからといって、勝手に割り当てを決めることはできませんが、そもそも学校開放委員会の委員も、Aさん関係者が多数を占めていました。また、この地区の学校開放委員会は、同地区の公民館が事務局です。公民館友の会の会長はAさんです。そのため、公民館としても、Aさんの機嫌を損ねると、利用者のとりまとめがうまくいかなくなります。長生クラブ連合会の古紙回収は、学校開放施設の優先的利用と引き換えに仲間に引き込んだのでしょうか。長生クラブ連合会の事務局は、当時の出張所が管轄していました。老人福祉センターも利用者の会の会長でしたから、地区の高齢者関係の団体にも強い影響力があったようです。
 ここまでの話をまとめると、Aさんは、どこから食い込んだかは分かりませんが、公民館、学校開放委員会、老人福祉センター、長生クラブ連合会の四つの団体を同時に支配し、それぞれの権益を相互に関連させながら、Aさんグループの主要メンバーで権益をむさぼっていたようです。これは当時の小学校の校長先生から聞いたのですが、Aさんグループは、新年に餅つき大会を主催しており、餅つき用の米を蒸すための蒸し器の直火が地面に影響しないようにするために、蒸し器の下に敷く砂をI小学校から勝手に持ち出していたそうです。校長先生がとても憤慨していたのを覚えています。一方、自治会町内会などあまり権益が見込めない地域活動には興味がなかったようです。

改築の公民館からは、物置は撤去

 そうやって、薄皮を剥ぐようにAさんグループの権益を少しずつ潰していきました。極めつきは、改築した公民館には私物を置く物置を認めなかったことです。この点は当時の公民館長も賛同してくれたことが大きかったです。Aさんグループは執拗(しつよう)に物置の設置を要求したようですが、執行部としても、一般質問で回答していますから、認めなかったようです。
 老人福祉センターに置かれていたAさんの机もなくなりましたし、コピーの流用もなくなりました。長生クラブ連合会の古紙回収も正常化しました。しかし、これらの一連のキャンペーンの影響かは分かりませんが、公民館からの私物撤去を求める一般質問によって、私の得票数が前回に比べて200票ほど減ったのは事実です。現在は、Aさんをはじめとした皆さんは、既に泉下の人となりました。それにしても、Aさんが築き上げたこの権益確保のビジネスモデルは、ある意味見事でした。Aさんが生きた時代は、行政を出し抜いて仲間と権益を分け合うことに、それほど強い罪悪感を抱いていなかった印象です。しかし、こうしたビジネスモデルや権益の束を許すことは、結局、既得権益が守られ、新規参入が阻害されたり、本来の行政目的がねじ曲げられたりするため、やはり看過できませんでした。
 その後、議会選出監査委員としては、私の地域以外の公民館や学校の私物の徹底的な指摘を進めました。公民館監査では、まず現場監査の前に、公民館長に「利用者の私物はありませんね」と確認します。ところがある公民館では、南京錠がかかっている小部屋があり、鍵を開けてくださいとお願いすると、館長は「私は持っていません」というのです。しばらくたって鍵をどこかから見つけてきて扉を開けると、中から地域のお祭りに使う神輿(みこし)が出てきました。事情は分からなくもないのですが、紛失、破損、盗難などがあった場合、市の敷地内に保管されていれば、一義的には市が賠償責任を負わざるを得ません。このことでも、当該地域の住民から苦情の電話が私のところに寄せられました。
 読者の中には、「何と了見の狭い人間だ」と思われる方もいることでしょう。しかし、もし私物を預かるなら、希望する全ての人のスペースを確保する必要があります。百歩譲って、預かるのであれば、公共財産として寄附していただくしかありません。公民館友の会の「物置」のように、預かりを一度許してしまうと、それが蟻(あり)の一穴となって、Aさんグループのように行政の私物化が進行するきっかけとなるのです。一見住民サービスの向上に見える私物の預かりは、そういった危険性をはらむことを新人議員の皆様にはぜひとも理解していただきたいと思います。
 今回取り上げたAさんグループの事例は、過去の話になってしまいました。しかし、私が把握しているだけでも、見方を変えれば上記の事例より悪質なモンスター住民が、少なくとも3人は所沢市に存在しています。いずれも現在進行形な話なので紹介できませんが、どうやら現職の複数の市議会議員がこれらモンスター住民と密接な関係を有しているようです。市議会議員から見れば強力な支援者となるのでしょうが、市議会議員は、市民全体の代表であることをくれぐれも忘れずに活動していただきたいと思います。

************************************
◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
02031016_6019f97c38bd8
 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る