2024.08.26 仕事術
第24回 どうするモンスター住民①
「議員さん、私を人事異動で飛ばしたでしょ」とある職員からいわれる
今回取り上げるモンスター住民は、リーダーAさんを中心に一団のグループを形成していました。しかも、そのほとんどが私の近所の住民でした。しかも、Aさんは、ある武道系のスポーツ競技団体の事務局長を熱心に務めていたことから、議員になる前から私もよく知っていましたし、私の古くからの友人もそのスポーツ競技団体でAさんのお気に入りとして活動していました。そのスポーツ競技団体には、私の別の友人も熱心に通っていました。そういったこともあり、いろいろなうわさが聞こえてきていましたが、その時点では市民に対する目立った実害は把握できなかったこと、実際に住民の福祉向上に貢献されていたことから、Aさんたちの活動を傍観していました。
Aさんグループ(以下はモンスター住民ではなく「Aさんグループ」と称します)の活動は多岐にわたっていました。先ほど述べた武道系のスポーツ競技団体の運営や地元の高齢者活動(長生クラブ)の運営、資源リサイクル活動、地元にある高齢者施設の利用者団体の運営、地元小学校2校の学校開放委員会への協力、地元公民館の利用者の会(友の会)の組織運営、などです。後に分かるのですが、これらが混然一体となって、見事なビジネスモデルを形成していました。これら全ての活動の中心的なメンバーは、Aさんグループで占められていました。個々の利権は小さいのですが、それらが地下茎のようにつながり、新規参入者は、行政施設を使った生涯学習活動が行いにくい状況にありました。一方、Aさんグループに近い団体や個人は、特権的に行政施設の利用が行える状況でした。
子どもたちを対象とする放課後スポーツ活動を行いたいという団体から相談を受けたことがあります。その団体は、まだ地元では新参者であったため、地元に二つある小学校の体育館の利用の権利が得られず、どうすればAさんを説得できるか、という相談を受けました。当時は、議員として地域の生涯学習活動にあまり関心がなかったため、何ら適切なアドバイスもできず、適当にお茶を濁して返答しました。
ところが、二つの出来事が起こったことから、これは一定程度けん制しておかないといけないと考え、一般質問で彼らの活動を間接的にけん制する質問をするに至りました。本当は、そこでけん制して終わるつもりだったのですが、そうはならず、結局、彼らの違法・不当なビジネスモデル全てを標的にすることになってしまいました。
きっかけは、私も頼りにしていた地元の公民館の担当職員であったBさんから投げかけられた一言です。
Bさんの仕事ぶりは、大変公正で公平、かつ熱心でした。私も、Bさんを非常に信頼していました。ところが、定期人事異動で、普通なら複数年在籍するのですが、1年で別の生涯学習施設に異動になってしまいました。優秀な方なので、引く手あまたなのだろうと思っていました。異動後に、Bさんにお会いしたところ、いきなり「議員さん、私を飛ばしたでしょ」というのです。そのときは全く意味が分かりませんでした。Bさんには、Bさんの熱心な仕事ぶりには敬意を払っていたことと、私は議員としてどんなに気に食わない職員であっても執行部に対して異動を働きかけることはしないと決めていることを話しました。Bさんは、いぶかしがっていましたが、その場は一応納得してくれました。
納得できないのは、むしろ私の方でした。一体これはどういうことだろう。後ほど生涯学習部門の職員に探りを入れたところ、BさんはAさんグループの不興を買ってしまい、生涯学習部門に一定の影響力のある職員のCさんが裏で動いて、異動させたことが分かりました。
また、別の事情もありました。当時は、4期16年続いた市長が交代し、新市長になっていました。Aさんグループは、新市長を応援していたこともあり、その点も忖度(そんたく)されたのかもしれません。いずれにせよ、一般住民が市の人事に口を出すことは、あってはならないことです。
もう一つは、私のことを熱心に応援してくださっていた高齢者のグループDの方からの訴えでした。そのグループDは、お子さんたちが小学生のときに、小学校で社会教育部門が実施していた「家庭教育学級」で仲良くなった方々の集まりで、子どもたちが成人して以後もしばしば集まって食事会などを地元公民館で定期的に開催していました。
そもそも「家庭教育学級」の目的は、学校の保護者が子育ての悩みなどを話し合うことであり、さらにその方々が、「家庭教育学級」終了後も集まって活動することは、社会教育(当時は生涯学習ではなく、社会教育と称していました)の活動としては、まさに理想的な姿でした。
地元公民館では、地元公民館独自の公民館友の会なる組織が立ち上がっていました。それ自体は悪いことではないのですが、問題は、この友の会が、公民館の敷地内に友の会の会員組織だけが利用できる物置を所有していたことでした。友の会に入ることができれば、公民館を利用する際に備品をいちいち持ち帰らなくても、その物置に置いておけるため、利用者の団体には重宝がられていました。そのことを知ってはいたのですが、住民の方々の利便性向上のためにはやむなしと、私も黙認していました。会長はもちろん、Aさんです。
ところが、ある日、物置に置いておいたグループDの備品が勝手に処分されたというのです。どうやら、物置が手狭になってきたことから、物置の運用に関する話し合いがもたれたそうで、その話し合いを欠席したグループの備品は処分すると、話し合いの案内にも書かれていたようです。グループDの皆さんからは、「確かに欠席した私たちも悪いが、勝手に処分するのはヒドイ」、「他人から見ればどうでもいいものかもしれないが、備品はこれまでの活動の歴史を物語るもので本当に残念」との話がありました。
そもそも、民法では自力救済の禁止という大原則があります。例えば、無断駐車に対して勝手にタイヤの空気を抜く、罰金を科すなどの行為は自力救済に当たり、裁判所を通さずに自力で侵害を排除することはできないという原則に反します。そうした行為が私有地でも禁止されているのに、公共の施設で行われることは論外です。
ちなみに、この物置の設置と物置に友の会の会員が私有物を置けるようにしたのは、職員Bさんの異動を働きかけた職員Cさんであることが後に判明しました。そこで、まずは、公民館に利用者の私有物を置くことの是非を、議会の一般質問で確認することに決めたのです。