2024.07.11 仕事術
第22回 どうする議会基本条例②
元所沢市議会議員 木田 弥
前回紹介した、国から地方への指示権を盛り込んだ地方自治法改正案が、令和6年通常国会で成立しました。成立に当たって、大分県の佐藤知事は7月2日の知事定例会見で、次のようにコメントしています。「想定外の事態が起きた際に迅速に対応できないおそれがあるため予防的に法改正するというのは理解できないわけではないが、基本的には個別法で規定すべきだ」、「付帯決議では実際に国が指示を行う際は自治体の意見も聞きながら丁寧に行うとされていたので、地方自治の本質を損なわない形で運用してもらいたい」(1)とまっとうな意見を開陳されています。
「地方自治の本質」と佐藤知事はコメントされましたが、日本国憲法では、「地方自治の本旨」と表現されています。今更ですが、改めて「地方自治の本旨」を確認します。参議院憲法審査会のウェブサイトでは、「憲法の『地方自治の本旨』は、住民自治と団体自治の二つの要素からなり、住民自治とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であり、団体自治とは、地方自治が国から独立した団体にゆだねられ、団体自らの意思と責任の下でなされるという自由主義的・地方分権的要素であると言われている」(2)と整理されています。
前回も紹介した西尾勝・東京大学名誉教授は、「自治はなによりも自主立法権を基本要件とする。他人の命令を単に執行する行為は自治ではない」(西尾勝『行政学の基礎概念』(東京大学出版会、1990年)373頁)と記述されています。参議院憲法審査会の団体自治の説明からも、また西尾先生の記述からも、今回の指示権を盛り込んだ地方自治法の改正は、少しオーバーランの印象です。
また、団体自治の観点からいっても、議会の運営に当たって、単に地方自治法の規定に唯々諾々(いいだくだく)と従うだけでは、自治とはいえないでしょう。少なくとも地方「自治体」と称するならば、そこに設置される地方公共団体の意思決定を担う地方議会は、やはりそれぞれの議会基本条例を持つべきということをしつこく強調しておきたいと思います。
特別委員長報告で第1次案を全て読み上げた
さて、前回は、6月議会に設置された議会基本条例制定に関する特別委員会が、作業部会による懸命な作業を経て、工程表どおりに議会基本条例の原案を作成したところまでの経緯をお伝えしました。特に作業部会の所属となった議員各位には、夏休み返上で第1次案を作成していただきました。
第1次案は、9月議会冒頭の特別委員長報告において、その全文を特別委員長が読み上げることで、議会へ正式に報告した形をとりました。委員長報告に対しては質疑の時間も設けられましたが、さしたる質疑はありませんでした。
第1次案についての議論の論点のみを委員長報告の形で議会に報告するという方式も選択肢としてはありました。例えば、どのような案を作成中であるかの要約や、委員会での質疑内容、論点などで済ますという方法です。しかし、議会基本条例という議員全員に関わる条例であること、また、工程表を作成して進めていることについても改めて本会議で議員全員の合意を得ること、そして第1次案を会議録に残すことも重要と考えていたので、第1次案を全て読み上げることにしました。
特別委員会には、当時のいわゆる1人会派の議員は所属していなかったため、その方々にも丁寧に周知したいという思いもありました。このことを逆手にとられて、後に苦労するのですが。
この原稿を書きながら、改めて2005年9月3日開催の所沢市議会会議録を確認しています。もくろみどおり、しっかりと第1次案全てが掲載されています。
また、作業部会の行う第1次素案の策定指針として、前回も紹介したように、「①既存の先行する議会基本条例で取り上げられている論点に基づく条文はなるべく網羅して作成する。②条例案の形式で作成する。③所沢市議会独自の条文、論点をできれば盛り込む。④作業部会で意見が分かれた場合は、集約が基本であるが、集約が不可能な場合は当面、両論併記することも可とする。⑤第1次案は8月20日までに作成する」ことも報告しています。
特に「③所沢市議会独自の条文、論点をできれば盛り込む」については、「具体的には、議会の条例制定の役割を強調すること。国会の質問主意書のような形で、議会閉会中の文書による一般質問を制度化すること。開かれた議会という抽象的な表現ではなく、より具体的な条項で、結果として開かれた議会を目指すこと。議員同士の自由討論の機会を拡大すること。議員勉強会を制度化すること」などが確認されました。
また、この会議録を確認して思い出したのですが、第1次案の中に含まれていた5条(会派)4項「議長は、必要があると認めるときは、会派の代表者の会議を開催することができる」については、代表者会議での議論を踏まえた上で、条項として採用するかどうかを検討することを確認することとなっていました。
結果的には、代表者会議での議論によって、代表者会議はあくまでも任意の調整の場という位置付けであるため、議会基本条例には記載しないことになりました。
実際は、議会基本条例では、会議は公開が原則ですから、人事案件など機微に触れる主題を検討する代表者会議が傍聴可能になってしまうと、結局、別の議論の場を設けることになるため、議会の運営実態に鑑みて、代表者会議は条例案から外しました。
第1次案の策定に当たって、法制面のチェックを、同僚議員の恩師でもあった行政法が専門の村上順・明治大学教授(当時)に、同僚議員のつてで非公式にお願いしました。村上教授からは立法事実が重要という貴重な示唆をいただきました。議会基本条例に当てはめていえば、当時は、所沢市議会として全く着手していないことを条例に羅列するのはルール違反ということです。
条例を制定して新しい取組みを始めるのではなく、既に実施している取組みを条例化するのが基本になります。当初案では議会で取り組んでいない条項が半数以上でした。
しかし、例えば市民提案手続など、事実を積み上げてからの条例制定では、当初の工程表上、間に合わなくなってしまいます。そこで、特別委員会において工程表を改定し、条例制定過程で「市民からの意見聴取、意見提案手続、公聴会等」の立法事実を積み上げていこうということになりました。結果的に、我が市議会初の試みに条例制定過程で取り組むことになりました。