2024.07.10 仕事術
第3回 議長が行ったセクシュアル・ハラスメントによる辞職勧告決議
A県B市議会の議長によるセクハラ事案
今回のケースは、議長によるセクハラの事案です。本事案は公務中の酒席においての女性議員に対する言動がB市議会の政治倫理基準違反審査を受け、辞職勧告相当であると判断された事案です。具体的にどのような言動がセクハラに該当したのかを解説していきましょう。
(1)本事案の概要
2024年2月にA県B市で酒肴(しゅこう)を伴う祝賀会が開催された。B市議会のC議長(男性議員)は祝賀会の開始後にD議員(女性議員)を自席に呼び寄せ、D議員の手を握って隣の席に座るように何度も促した。やむなく隣に座ったD議員に対してC議長は、酒に酔って真っ赤な顔で、にやにやしながら無言でD議員の顔に手を伸ばす。D議員は触られないようにするため体を反らしたが、C議長は手のひらでD議員の顔(あご)を触った。
危機感を覚えたD議員は口実をつくって席を離れたが、D議員の席にいるE議員(男性議員)と会話をするために近寄ってきたC議長が、E議員との会話の中で「D議員を口説いてやったよ」と発言。E議員はC議長に「そんなこと、D議員のご主人に言って大丈夫なのですか」と発言。その後、C議長はD議員、E議員の座る席を離れていった。
本事案の発生から約半月後、本事案がB議会の政治倫理基準に違反しているとして審査請求が行われ、審査の結果、不適切な言動とハラスメント行為に関する事実を認定。審査にて「議員辞職勧告に相当する」と判断。その後に開催された臨時議会にてC議長に対する辞職勧告決議が下された。
(2)本事案の問題点
本事案は酒肴を伴う祝賀会におけるC議長の「①接触行為」、「②理不尽な言動」がB市議会議員政治倫理条例に違反すると認定されており、審査の結果、「議員辞職の勧告」をすべきと結論付けられました。それぞれの言動について、どのような問題点があるかを具体的に解説していきます。
ア 「①接触行為」について
B市議会議員政治倫理審査会において認定された行為のうち、「①接触行為」については「C議長に手をとられ、その手を両手で握られた」行為、「手のひらでD議員の顔(あご)を触った」行為の2点が接触行為と認定されました。C議長はそれぞれの行為について、「握手しただけ」、「やっていない」と否定しています。しかし、手を握る行為については、「D議員は能動的に手を差し出していない(握手の意思はない)」と証言していることや、目撃した複数の議員の証言からも、手を握っている時間が、通常の握手といえる長さではなかったことから、D議員の証言が事実として認定されました。
C議長は特に「手のひらであごを触った」という行為について政治倫理審査会で否定しました。しかし、D議員の証言が具体的であること、また「伸ばした手のひらは上を向いていた」ということは、体験した人しか証言できないこと、さらにその行為を直接目撃した議員がいることから、事実として認定できる、と判断されています。
イ 「②理不尽な言動」について
「D議員を口説いてやったよ」という「②理不尽な言動」について、C議長は「そんな表現を使ったとは思っていないが、男同士の会話で冗談半分に言ったのではないか」と弁明しています。ですが、この発言を直接聞いた議員が複数おり、C議長の発言を受けてE議員が「そんなこと、D議員のご主人に言って大丈夫なのですか」と返していることから、事実として理不尽な言動が行われていると認定されました。
上記2点の行為について、B市議会議員政治倫理審査会が下した結論は、「B市議会議員政治倫理条例に違反し、政治的及び道義的な責任を免れることはできない」というものでした。このように、それぞれの行為や言動がB市議会議員政治倫理条例に違反していることが問題ですが、さらに大きな問題は別にあります。
それは、C議長の事案発覚後の言動が「D議員への謝罪の意や自らの過ちを認めて心からの反省をしているということが十分に伝わる内容とはいえず、D議員は謝罪を受けたという認識をしていない。また、当審査会の事情聴取に応じるC議長の言動には、真摯な反省をしているとは思えない部分が随所にあった」と報告書に記載されるほど反省の意を示していないことです。
本事案は全国ニュースに取り上げられるレベルの重大なセクハラ事案にもかかわらず、本人は「何が悪いかを理解していない」ことが今回の事案の最大の問題点といえるでしょう。
この点はB市議会としても重く受け止められており、C議長に対する厳しい目がB市議会で向けられていることは容易に想像できます。これが辞職勧告決議文に如実に示されていますので、ご一読ください。