2024.06.10 仕事術
第21回 どうする議会基本条例①
なぜ議会基本条例が必要なのか?
ここで改めて、地方議会にとって、なぜ議会基本条例が必要なのかについて整理しておきます。
(1)首長の権限強化に議会が対応するため
2000年の地方分権一括法施行によって、首長に権限が大きく移譲されました。その権限の拡大に合わせて、権限をチェックする議会の機能も強化しなくてはなりませんでした。そのためには、議会自らのチェック機能についての位置付けをはっきりさせる必要があり、議会基本条例の制定が必要であるとされました。
(2)議会についての体系的・網羅的な基本条例が必要であるため
地方議会には、会議規則や委員会条例、傍聴規則など、それまでも規則や条例がありましたが、それらを包括的にまとめる最高法規がありませんでした。包括的な法規は地方自治法と捉えられていたからでしょう。しかし地方自治法は、大まかな規定にとどまっており、例えば会派規定などもないなど、それぞれの議会の実情に対応できていません。全体を体系的にまとめた条例の制定が、地方分権一括法制定以降は必要であるとされていました。
(3)自治基本条例の議会条項だけでは不足があるため
地方分権一括法施行に伴って、改めて自治体個々の位置付けをはっきりさせるための憲章の重要性が認識されました。その憲章として、自治基本条例の制定の必要性が高まりました。一方、この自治基本条例には、議会条項があり、自治基本条例に議会のことは包含すればいいという主張もありました。議会条項については自治基本条例に含めるのではなく、より積極的に議会のことは議会自ら別途規定すべきという考え方により、議会基本条例の制定が必要とされました。
(4)議会の予算事業を条例でしっかりと裏付けるため
廣瀬克哉・法政大学教授の議会基本条例制定に関する講演によれば、①住民に議会のあり方を示す、②条例をテコに議会改革を進める、③議会の予算事業を条例で裏付けることを議会基本条例制定の意義と説明されていました(3)。実際に、議会基本条例制定後、議会報告会、政策討論会などの事業を実施するに当たっては、予算執行が必要になるので、執行部に予算要求する点でも条例の裏付けは重要です。
(5)地方議会不要論・無用論への対応のため
所沢市議会が議会基本条例を制定することになった最大の要因は、住民に潜在的にある議会不要論、無用論です。議会側から改めて地方議会の存在意義を再定義しなければ、地方議会の存在が許されないといった切実な危機感がありました。
かつての右肩上がりの経済成長が続いていた時代には、予算の使い道などの執行部の活動に対するチェックではなく、自分たちの地域や利益団体へのより多くの資源の誘導が、地方議員の大きな存在意義であったといえます。そのため、投票率も高く、地方議員もやりがいを感じていたことでしょう。ところが、最近では、所沢市市民意識調査などでも、かつては1位の常連だった道路整備の要望が10位前後となるなど、インフラや箱物整備への期待は弱まってきています。最近の住民の要望としては、税金の無駄遣いのチェックや行政改革の推進などへの関心が高まりつつあります。戦後80年弱を経て、ようやく地方自治法に規定する首長及び執行部の活動を厳しくチェックするという本来の議会の役割に回帰する時代がやってきたといえます。
しかし、今でも利益誘導こそが第一の仕事と捉える地方議員もいます。住民の切実な要望についての政策提案は議会の大きな役割でもありますが、必要性の低下した事業見直しとセットで提案をすることが、財政が右肩下がりの時代には必須です。改めて議会の本来の役割は何であるかということを、議会基本条例の制定を通じて再定義する必要があります。どのような形で議会基本条例制定につなげていったかを次に紹介します。