2024.06.10 仕事術
第21回 どうする議会基本条例①
元所沢市議会議員 木田 弥
前回までは、常任委員会を活用した政策の実現、請願審査や陳情審査、請願者の意見反映などについて確認しました。今回は、住民意見を反映した、充実した常任委員会活動を進めるに当たって、ぜひとも議会の標準装備としていただきたい議会基本条例の意義と、具体的にどのように議会基本条例制定に結びつけていくかについてお伝えします。
議会基本条例を制定する議会は着実に増加しているが
現在、国会では、国が自治体に対して対応を指示できる指示権を盛り込む地方自治法改正案が審議されています。原稿執筆時点で衆議院を通過しましたので、成立は時間の問題と思われます。
2000年の地方分権一括法制定以降、国の自治体への関与は大幅に制限されて、機関委任事務が法定受託事務に変更されるなど、国と自治体との関係が平等・対等の関係へと大きく変化しました。
しかし、コロナ対応をめぐって、国からの指示権がないことで混乱を来したことなどから、その点を立法事実(法律を制定する具体的な根拠事実)として、国が自治体に対して指示をする権利を盛り込んだ地方自治法改正案を政府が提案したようです。国会でも、指示権における立法事実について議論が行われました。
朝日新聞デジタルの記事によれば、5月21日の地方自治法改正案についての参考人質疑では、「山本隆司・東大大学院教授は、コロナ禍を例に挙げ『個別法で規定された指示ではカバーできない事態が発生した』と説明。『想定外』の事態に備え、『個別法を改正するまでの応急的対応のための一般的な制度』として必要と主張した。これに対し、中央大の礒崎初仁教授は『立法事実はない』と真っ向から反論した。コロナ禍で起きた大型客船の感染拡大では『想定外』の事態が発生したが、『(国と自治体が)法の枠組みを超えて対応した』と指摘。『想定外の事態が起こるから指示権が必要というのは乱暴な議論』と批判した」(1)とあります。
一方、1995年から地方分権推進委員会委員として地方分権改革をリードしてきた西尾勝・東京大学名誉教授は、著書『自治・分権再考』(ぎょうせい、2013年)3頁で、地方分権改革について主に3点の危惧を表明しています。
① 地方分権改革の究極の目的が、正しく理解されていないのではないか。
② 地方分権改革の難しさが、的確に認識されていないのではないか。
③ 地方分権改革に対する要求が、いささか行きすぎているのではないか。
特に、①の説明として、「地方分権改革の『究極』の目的はあくまで『住民自治の拡充』なのである」と解説しています。ただ単に権利としての地方分権を自治体も地方議会も主張するだけでなく、権利に見合うだけの努力をするべきですし、そうしたことを怠ってきた結果が、今回の指示権を含む地方自治法改正案の提案につながったのではないかと、私は理解しています。そのことは、地方議会における議会基本条例の制定状況を見ても、ある程度理解できます。
実際に、公共政策研究所の調査による「全国自治基本条例・議会基本条例の施行状況(2023.10.1現在)《修正版》」(2)を受けて地方自治研究機構が、「議会基本条例は、令和5年(2023年)10月1日時点(施行日を基準)で、全国1012の自治体で施行されていることとなる。全国の自治体における施行自治体の割合は56.6%であり、内訳は、道府県が32団体、市区町村が980団体である。自治基本条例が全国の2割強の自治体で制定されているのに対して、議会基本条例は6割弱の自治体で制定されていることになる」と分析しています。
出典:公共政策研究所「全国自治基本条例・議会基本条例の施行状況(2023.10.1現在)《修正版》」(2024年)
図 年度別全国議会基本条例施行状況(2023年10月1日現在)
議会基本条例の制定ピークは2013(平成25)年度で、161議会。所沢市議会は、2008(平成20)年度に制定しました。全国で18番目の制定でしたので、比較的早かったといえます。
制定のペースは以前ほどではないですが、2021年度33議会、2022年度37議会、2023年度(10月1日時点)19議会と、一定のペースで議会基本条例の制定が進んでいます。一方で、いまだに4割の地方議会で議会基本条例が制定されていないというのは、少し残念です。議会の標準装備となっているとは言い難い状況かと思われます。
私としては、議会基本条例を制定しないという理由が理解できません。地方分権改革と議会基本条例の制定は、表裏一体のものと実感しているからです。