2024.05.13 仕事術
第20回 どうする常任委員会③
参考人招致は手続が煩雑
平成21年3月に議会基本条例が制定されてからもしばらくは、請願については従来どおり、休憩をとって請願者から提案理由についての趣旨を聴くという運用を続けてきました。しかし、いつかチャンスがあれば請願者を参考人として招致したいと思っていました。その後、平成22年第3回定例会に提案された請願第6号「自治基本条例検討についての『体制整備』を願う件」で、初めて請願者を参考人として招致することができました。
参考人招致は、手続が煩雑です。もし、請願について参考人招致をしようとするならば、請願を審査する委員会で、まず参考人招致を決定しなくてはなりません。招致を決定した当日に参考人を招致し、意見を表明してもらうことは、基本的には不可能です。もちろん、あらかじめ参考人に当日にスタンバイしてもらっていて、招致が決定次第、委員会に出席願うという方法も理論的にはありえますが、所沢市議会会議規則82条では「会議において参考人の出席を求める議決があったときは、議長は、参考人にその日時、場所及び意見を聴こうとする案件その他必要な事項を通知しなければならない」と規定されているため、委員会で参考人招致及び参考人を決定→議長に報告→議長から参考人に通知、というのが通常ルートになります。所沢市議会初の請願についての参考人招致についての委員会では、以下のようなやりとりがありました。
A委員「もし、本日、参考人を招致して審査することとなった場合、手続上に支障はないのか。」
議会事務局「同日内に、議長、参考人宛ての関係書類の提出、また、参考人の出欠確認作業が必要になると思います。」
委員長「同日ですべて完了させるのは困難である。」
そのため、必然的に委員会開催が1日追加となりました。会期は延ばすと面倒なので、議事整理日に委員会を開催することとしました。このことでも、ひと悶着(もんちゃく)ありましたが、議長が私たちの会派から選出されていたため、何とか乗り切りました。当然ですが、請願の審査は議案ですので、議案として正式に議題に上っていない定例会開催前に、参考人招致を決定することは不可能です(ただし、通年会期制になれば、事情は変わってきます)。
平成22年第3回定例会の場合は、まず参考人招致を同年9月7日の委員会で決定(2)。その後、同月16日の委員会で参考人から意見を聴くこととなりました。この議事録を見ていただければ分かるように、従来どおり休憩をとって意見を聴くだけでよいのではないかという委員もいました。
9月16日の委員会では、請願代表者1人が参考人に指名され、請願趣旨説明が行われました。議事録は要点筆記とはいえ、参考人からの趣旨説明及び質疑応答を含めて全体で19頁あり、詳細に記録されています(3)。
この請願のポイントは、所沢市自治基本条例の制定に当たり、議会においても特別委員会を設置して、じっくり議論してほしいという内容でした。請願は採択され、「特別委員会の設置及び〔総務常任委員会から〕特別委員会への〔自治基本条例議案の〕付託替えについて、委員長が議長に申し入れすること」となりました。
結果的には、自治基本条例制定に関する特別委員会の委員長に私が就任して、自治基本条例原案の大幅な改定を進めることになったのですが、それはまた別の機会に。
いずれにせよ、この請願審査についての参考人招致が前例となって、以降は、すべての請願ではないものの、請願審査に当たっての参考人招致が、所沢市議会では標準となっていきました。
請願代表者だけが参考人となるわけではない
その後、平成23年第3回定例会では、請願第6号「所沢市若松町のバッティングセンターの打球音による騒音の改善指導を求める請願」が審査されました。このときには、請願の代表者の参考人招致だけでは一方的であるとして、バッティングセンターの代表者も参考人として招致して意見を聴くこととなりました(4)。
その中で、バッティングセンターの代表に対して、B委員から「先日当委員会で視察した中で、車がいたずらされたという話がありましたが、誰の車ですか」との質問があり、バッティングセンターの代表者が「私の車です。バッティングセンターの前に午後3時頃まで駐車し、午後3時過ぎに借りている近隣駐車場に移動するのですが、傷つけられたのは移動した後で、午後3時過ぎから午後10時までの間です」と答える場面がありました。結果として請願は採択されましたが、議会として利害関係者双方の意見をしっかりと把握することの重要性を認識しました。
さらに、平成27年第3回定例会の請願第2号「狭山丘陵・三ヶ島2丁目に造成予定の墓地計画は、所沢では前例のない盛土・急斜面地であり、崩落の危険性に関する斜面災害の専門家による調査報告を、所沢市が十分精査し吟味することを求める件」では、請願代表者のみならず、この請願に関連する専門家(京都大学防災研究所教授・釜井俊孝氏)及び事業者(4人)の三者、6人を参考人として招致して意見を聴取するという大がかりな審査となりました(5)。
議事録も全体で110頁に及びました。この日は午前9時に開会し、閉会が午後5時18分と、ほぼ1日かけて参考人招致と参考人に対する質疑応答、及び審査が行われ、結果的には「趣旨採択」ということになりました。
請願審査を担当する議員も請願内容について一定程度の知識がないと、参考人に対する充実した質疑が行えないことが分かりました。
その後も請願審査に当たっては、必要に応じて参考人招致することが、所沢市議会の標準装備となっていきました。参考人招致を通じて、自治法96条には明確には書かれていませんが、地方議会には住民の利害調節機能もあることが発見できました。議会不要論に対抗するためにも、まずは請願者の参考人招致に取り組まれてはいかがでしょうか。
次回は、請願審査への参考人招致のきっかけとなった議会基本条例の制定についてがテーマです。
(1) 総務省自治行政局「地方自治法の一部を改正する法律(概要)について」(平成24年9月)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000174609.pdf)。
(2) 所沢市「平成22年9月7日総務常任委員会会議記録(概要)」(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shigikai/tokubetuiinkaijyouhou/jyonininkai/H27_3jyonin/somu/soumu22.files/h22.09.07soumu.pdf)。
(3) 所沢市「平成22年9月16日総務常任委員会会議記録(概要)」(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shigikai/tokubetuiinkaijyouhou/jyonininkai/H27_3jyonin/somu/soumu22.files/h22.09.16soumu.pdf)。
(4) 所沢市「平成23年9月13日市民環境常任委員会会議記録(概要)」(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shigikai/tokubetuiinkaijyouhou/jyonininkai/H27_3jyonin/siminkankyo/shimin23.files/siminkankyou23.9.13.pdf)
(5) 所沢市「平成27年9月15日建設環境常任委員会会議記録(概要)」(https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shigikai/tokubetuiinkaijyouhou/jyonininkai/kenkan.files/270915kenkan-2.pdf)。
◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)
江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。