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2024.04.25 仕事術

第19回 どうする常任委員会②

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請願の審査を通じて地域課題の解決を目指す

 ともすれば、普段はあまり住民の方に意識されにくい議会の存在ですが、ひとたび地域に何らかの問題が生じた場合、議会は、請願の審査を通じて、問題解決のための機関として活用されます。
 そうした例の一つが、マンションの新規建設によって日照が遮られる住民からの請願です。それほど法制度に詳しくない住民の方の場合、「マンションそのものの建設を認めないでほしい」という請願の原案が持ち込まれることになります。さすがにそれは無理なので、請願を受けた議員は、マンション業者にも一定の譲歩の余地がある案に調整します。例えば、階数を減らす、あるいは、上層階ほど部屋数を減らして、なるべく日照を確保するなどです。執行部側には、法令にのっとった計画であれば、何ら介入する権限はありません。しかし、マンションの場合は、例えば近隣住民が、建設反対などと書かれたむしろ旗や看板を建設予定地周辺などに掲示した場合、マンションの売れ行きに影響が出ます。マンション業者としては、早めに売り切って、次の物件に取りかかりたいところです。完売がずれ込むほどに、モデルルームの開設期間が延び、人件費などもより多くかかります。そうなると、周辺住民の意向にも設計で一定の配慮をした妥協案が示されるようになります。ただ黙っていて妥協案が示されることはありません。妥協案作成のために自主的にマンション業者にかけあって調整に乗り出す議員も出てきます。そうした活動に熱心に励む議員は、陰ではマンション議員と呼ばれていました。
 マンション業者と周辺住民の間で一定の合意が得られた場合は、住民側は請願を取り下げる場合と、取り下げずに趣旨採択とする場合があります。そういった場合、請願を審査する委員会で、マンション議員が、妥協案が示されたことを理由に、声高に趣旨採択を叫びます。たいていの場合、請願者も傍聴していることが多く、マンション議員にとって住民に対する最大の見せ場になります。請願者の一部は、その議員にマンション問題で世話になったことをきっかけに、その議員の熱心な支持者になっていきました。マンション議員はそのため、マンション問題を所管する常任委員会に常に所属し続けました。
 最初にその光景を目にしたときには、そういった裏交渉を知りませんでしたから、あっけにとられました。よくよく考えてみれば、趣旨採択というのもよく分からない処理の仕方です。
 請願の処理状況については、前出の「市議会の活動に関する実態調査結果:令和4年中」によれば、全2,350件中「採択」795件、「一部採択」26件、「趣旨採択」68件、「不採択」1,029件となっています。所沢市議会は、「一部採択」は申し合わせで認めていません。よって請願は「採択」、「趣旨採択」、「不採択」のいずれかに処理されます。「趣旨採択」は、先ほどのマンション建設に関わる請願のように、採択されるまでに一定の解決をみた場合もありますが、たいていは限りなく不採択に近い採択という印象が強いです。有権者でもある住民の方を前に露骨に不採択にすることは、特に請願代表が地域においても一定の影響力のある人物だったりした場合は、はばかられます。そのため、趣旨については理解するという玉虫色の結論となります。たまらないのは執行部で、では、請願についてどのように対応すればよいのか、思案に暮れることもあるようです。
 採択された請願は、自治法125条で「普通地方公共団体の議会は、その採択した請願で当該普通地方公共団体の長、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会又は監査委員その他法律に基づく委員会又は委員において措置することが適当と認めるものは、これらの者にこれを送付し、かつ、その請願の処理の経過及び結果の報告を請求することができる」とされています。実際は、請求しなくても、定例会初日の諸報告事項に、「請願・陳情の処理経過及び結果について」として報告されます。執行部の心配をよそに、報告される頃には、紹介議員ですらすっかり関心を失っていることの方が多いようです。
 いずれにせよ、請願という制度は、議会にとっては住民に対して議会の存在意義をアピールするよい機会でもあるので、請願制度そのものの認知度をもっと高めていく必要があるでしょう。さて、皆さんの議会では、請願審査に際して、請願者の意見をどのように表明してもらっていますか? 委員会を休憩して、その間に議事録に残らない形で発言いただく形式ですか? 所沢市議会もかつてはそういう形式でしたが、現在は請願者が希望すれば委員会の議事録に残る形で意見を表明していただくように制度を変えました。その話はまた次回に。

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◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

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