2024.03.25 コンプライアンス
第92回 地方議会議員選挙における当選無効と議員報酬・政務活動費の取扱い
つまり、公選法違反の罪の被疑事実等により拘束されていた期間を除き、A議員が議員活動を全く行わなかったなどの特段の事情があると認めることはできないことから、B地方公共団体はA議員の議員活動によって利益を受けたといえ、当選が無効とされるまでに一定の議員活動を行っていた場合には、支給を受けた議員報酬及び期末手当と対価性のある議員活動を行ったといえる。そのため、その部分については、A議員はB地方公共団体に対して不当利得返還請求権を有することとなり、支給された報酬との間で相殺されることとなる。
ちなみに、当選無効となった議員の加わった議会の議決については、直ちには効力に影響せず、地方自治法176条4項による再議の原因になるといえる。
しかし、以上の行政実例及び判例の考え方は、最三小判令和5年12月12日裁判所ウェブサイトに完全に覆されることとなった。
まず、当選無効となった議員に対して交付された政務活動費については、条例に基づき交付される政務活動費は、市会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の助成として交付されるものであって、条例所定の政務活動の対価として交付されるものとはいえず、公選法251条の規定により遡って市会議員の職を失った当選人を唯一の所属議員とする会派が政務活動を行っていたからといって、その活動により上告人(B地方公共団体)が利益を受けたと評価することはできず、全額B地方公共団体に返還すべきものであるとされた。
【最三小判令和5年12月12日裁判所ウェブサイト(抜粋)】
条例に基づき交付される政務活動費は、市会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の助成として交付されるものであって、同条例5条所定の政務活動(以下、単に「政務活動」という。)の対価として交付されるものとはいえず、公職選挙法251条の規定により遡って市会議員の職を失った当選人を唯一の所属議員とする会派が政務活動を行っていたからといって、その活動により上告人〔B地方公共団体〕が利益を受けたと評価することはできない。
そうすると、上記当選人〔A議員〕は、上告人〔B地方公共団体〕に対し、上記会派の行った政務活動に関し、不当利得返還請求権を有することはないというべきである。
したがって、被上告人〔A議員〕は、上告人〔B地方公共団体〕に対し、上記1の相殺の抗弁に係る不当利得返還請求権を有するものということはできない。