2024.03.11
第10回 断水による損害について水道事業者に賠償を請求することはできるか
弁護士 尾畠弘典
断水による損害について水道事業者に賠償を請求することはできるか。
水道事業者の過失や水道施設の瑕疵(かし)による断水の場合は賠償を請求することができる。
1 給水契約の不履行に基づく損害賠償責任
水道事業者は、給水契約上、利用者に常時水を提供する義務を負う(水道法15条2項本文)。水道事業者の過失により断水が発生した場合は、給水義務の不履行となり、利用者に対し賠償責任が発生する(民法415条1項)。
○水道法
(給水義務)
第15条 略
2 水道事業者は、当該水道により給水を受ける者に対し、常時水を供給しなければならない。ただし、(中略)災害その他正当な理由があつてやむを得ない場合には、給水区域の全部又は一部につきその間給水を停止することができる。(以下略)
3 略
2 国家賠償法上の責任
地方公共団体が水道事業者である場合、水道施設の設置又は管理の瑕疵により断水が発生したときは、賠償責任が発生する(国家賠償法2条1項)。
3 損害賠償責任を免責する条項の存在
現在、多数の地方公共団体の条例において、以下のような免責条項が定められている。
(給水の原則)
第●条 給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又は、この条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。
2 略
3 第1項の規定による、給水の制限又は停止のため損害を生ずることがあっても市(町村)は、その責を負わない。
4 免責条項は免責の根拠にならない
しかし、この条項は、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があつてやむを得ない場合」には給水義務が免除されて債務不履行による損害賠償責任が生じないことを確認したものにすぎないと解される(最判令和4年7月19日民集76巻5号1235頁、判時2543・2544号50頁、判タ1501号47頁)。
すなわち、水道事業者は、このような条項を根拠として賠償を拒否することはできないと解される。
5 損害賠償義務の成立要件
(1)給水契約の不履行に基づく損害賠償義務
①断水が「災害その他正当な理由があつてやむを得ない場合」(水道法15条2項ただし書)に該当せず、かつ、②「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」(民法415条1項ただし書)が認められないときは賠償義務が生じる。
(2)国家賠償法上の損害賠償義務
通常有すべき安全性を欠く状態に至った水道施設の損傷、機能不全等によって断水が発生したときは賠償義務が生じる。
(3)判断要素
いずれの賠償義務の検討においても、①断水の原因たる水道施設及び当該施設を構成する機器等(以下「当該施設等」という)が常時給水実現のために重要な役割を有しているか否か、②当該施設等の材質、設置状況等から当該施設等にどのような劣化・損傷が予期されるか、③水道事業者が当該施設等にどのような維持、管理を行ってきたか、の3点が主な判断要素となろう。
6 賠償の対象となる損害の範囲
断水によって通常生ずべきといえる損害が賠償の対象となる。
なお、水道利用者たる事業者に生じた営業損害についても賠償の対象となる可能性がある(事業者に生じた営業損害の賠償を認めた裁判例として福岡高判令和5年12月21日裁判所ウェブサイト)。
7 おわりに
断水の要因には様々なものがあり得るところであり、水道事業者の損害賠償責任の成否をひとくくりに判断することはできない。
地震や風水害などの災害が原因の場合は、水道事業者に対して責任を追及することは困難なケースが多いと思われる。
一方、水道施設の管理を漫然と放置したり、水道施設の更新を全く計画・検討しない状況下において水道施設の老朽化による故障で断水した場合は、損害賠償を請求することができると考えられる。