2024.02.13
第8回 アパートの家賃を滞納すると賃貸借契約を解除されてしまうのか
弁護士 滝口大志
アパートの家賃を滞納すると賃貸借契約を解除されてしまうのか。
借主と貸主との信頼関係が破壊されたと評価されたときに、賃貸借契約が解除される。
1 賃貸借契約の終了による建物明渡義務
貸主は、家賃不払などの債務不履行があったときに、賃貸借契約を解除して終了させることができる。賃貸借契約が終了したときには、借主は貸主に対して建物を明け渡す義務を負う。
ただし、一度の家賃の滞納があれば貸主が直ちに賃貸借契約を解除できるものではない。形式的には契約違反はあっても、賃貸借契約の解除が制限されるというルールがある。
2 「信頼関係破壊の法理」による制限
賃貸借契約は、借主が日々物件を使用収益する一方で、貸主は家賃の支払を受けるという、継続的な契約関係である。
賃貸借契約の継続的契約関係では、ただ単に債務不履行があるというだけではなく、その債務の不履行が貸主と借主との間の信頼関係を破壊する程度の債務不履行でなければ解除は認められない。
このルールを「信頼関係破壊の法理」という。民法や借地借家法などの法律に明文はなく、裁判所による判例の積み重ねによって確立されている。
3 何か月分の家賃不払で解除できるのか
いかなる場合に信頼関係が破壊されたと評価しうるかは、事案ごとの判断によらざるをえない。
過去の裁判例等に照らすと、おおむね3か月分の家賃の滞納があったときに、賃貸借契約の解除が認められる傾向にある。
一概に何か月分の不払があったので信頼関係が破壊されたと評価されるものではなく、滞納をたびたび繰り返したことなどの事情も考慮される。
4 貸主による催告解除
家賃の不払の場合は、通常、1週間程度の相当期間を定めて滞納家賃を支払うよう催告し、その期間が経過した時点で、滞納家賃が支払われなかったときに、解除できる(民法541条本文)。
もっとも、債務者(借主)がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなどには、催告しないで解除できる場合がある(民法542条)。
5 催告期間内の一部の支払
催告期間内に借主が滞納家賃の一部を支払い、債務不履行が軽微なものと判断されれば、契約の解除はできない(民法541条ただし書)。
例えば、月額10万円の家賃で、3か月分合計30万円の滞納があった場合、催告期間内に借主が29万円を支払ったときには、残額の1万円の滞納を軽微な債務不履行と判断されることがあるであろう。このときには、賃貸借契約を解除することはできないこととなる。
6 不払の原因によっては解除できない
例えば、借りているアパートが雨漏りするなど不具合があるときには、借主はアパートの全部又は一部を使用収益できない。使用収益の全部又は一部が妨げられた場合、使用収益が妨げられた割合に応じて家賃の全部又は一部の減額と支払拒絶が認められる。このように、不払の原因によっては、たとえ家賃の滞納があった場合であっても賃貸借契約が解除できるとは限らない。