2024.02.13 仕事術
第15回 どうする予算①
元所沢市議会議員 木田 弥
昨春に当選された方々にとっては初めての当初予算の本会議での審議及び委員会での審査が始まります(以下「審議」も「審査」も「審査」と表現します(1))。補正予算の審査はすでに経験済みかと思われますが、本格的な予算審査は、補正予算の審査とは少し趣が違います。大抵は、まず首長の施政方針が開陳され、その後に本格的な予算の説明が始まります。
議員になった以上は、何らかの政策を実現したい。そのため、自分の政策が予算に反映されているかどうかは大いに関心のあるところかと思います。議員になった以上はやはり、応援してくださる有権者や住民の期待に応えて自分の公約なり政策なりを予算化することが仕事の一つですし、予算化されることは、議員活動のモチベーションにもつながります。
新人議員の提案が予算化されることはまずない
今回は、自らの政策をいかに予算化するかについて検討します。
議員も期数を重ねてくると、首長の施政方針を基に、あたかも模擬試験の答え合わせをするかのように、自分が提案した内容が予算化されているかをチェックします。私は、いわゆる与党会派に所属したことがなかったのですが、それでも自分が提案した内容が予算化されているとうれしかったのは事実です。
すでに数回の一般質問を経験し、執行部からも前向きな答弁をもらえている、しかもいわゆる与党会派だから、それなりの対応が予算に織り込まれていると期待している新人もいるようですが、大抵は裏切られます。
一方、いわゆる与党会派でもない議員は、一般質問に対する執行部側の回答も木で鼻をくくった回答ばかりなので、特に期待感はないでしょう。むしろそういう議員は、政策の予算化よりも、予算の無駄遣いの指摘に重心を移さざるを得なくなります。執行部の無駄のチェックや、いわゆる与党議員と執行部の癒着、住民の行政財産私物化の動きにくぎを刺すのも大事な仕事です。私も、どちらかといえば議員活動の後半は、当時の市長と緊張関係にあったこともあり、そちらに重心が移っていきました。
そもそもある政策が新規に予算化されるというのは、そう簡単ではありません。新人議員が思いつくようなことは執行部側もある程度認識している場合が多く、内部で何らかの検討をしていると考えた方がよいでしょう。その結果、執行部側でも対応すべきと判断した場合は、予算化されることもあるようです。いずれにせよ、そうなれば、幸運なことに、表向きは議員活動の成果として喧伝(けんでん)できます。後に述べるように、私にも似たような経験がありました。
逆に、いわゆる与党系の議員に手柄をとらせるために、特に選挙前などに、予算化を検討している項目を質問させて、いかにもその議員が考えたように偽装しているかのような事例もあるようです。
新規事業の増額修正はなかなか難しい
では、執行部が、議員からの提案を全く考慮しない場合、新規事業を議会側から予算化するということは可能でしょうか。理論的には、地方自治法97条2項で、「議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない」としつつ、ただし書で「長の予算の提出の権限を侵すことはできない」と定めています。
しかし、「長の予算の提出の権限を侵すことはできない」という解釈が難しいのです。以前は款・項の新規の追加は認められないということでしたが、昭和52年からはそのルールも改められ、総合的な判断となりました(2)。
増額修正には制度的限界もあります。予算は歳入と歳出を一致させなくてはいけないので、増額分の歳入を確保しなくてはなりません。歳入確保のために、勝手に起債する権限も議会にはありません。ですから、少なくとも金額が大きい増額修正については、財源確保が難しいので、基本的には無理と考えていいでしょう。
一方で、ある歳出項目について、例えば金額が不十分と議会が認識した場合、財源の許す限りにおいて、増額修正は可能です。
少し古い例ですが、平成22年に福岡県田川市で、市長も将来的には実現を約束していた少人数学級実現のために、田川市議会が、今すぐ取り組むべきということで、増額修正した事例がありました。増額は1,438万円。財源は財政調整基金を充てたようです(3)。
私も変則的ながら、増額修正をしたことがあります。当時の市長が選挙公約としていた約20%の市長等の報酬削減予算案の否決に伴って、予算修正案を提案しました。市長が報酬を減らすという予算案に対して、減らさないという予算修正案でしたので、結果的に増額修正になりました。財源は、前年度繰越金の費目が計上されていたので、その繰越金額を増額するという形にしました(4)。
やろうと思えば、増額修正はできないことはないのですが、上記2例は、あくまでも提出された歳入歳出予算に計上されている項目についての増額となっています。
一方、新規の項目となると、さらにハードルは高くなりますし、ましてや金額的にも、財政調整基金や繰越金をかき集めても足りない場合などは、先ほども述べたように制度的に不可能です。ところが、あまり地方議会のことをご存じない識者の中には、そういうことが可能と思い込んでいる方もいるようです。
例えば、所沢市で市内小中学校へのエアコン設置計画を当時の市長が白紙に戻したことから、設置の是非について住民投票が行われることに対し、教育評論家の方が「所沢の市長も市長ですが市議会議員さんたち どうしたの!? 住民投票費用 議員歳費で負担させるべきでしょう!」と主張されていました(5)。
また、いったん増額修正が可決したとしても、市長が再議請求にかける可能性が高いことも容易に想像がつきます。そもそも、増額修正案を議会で可決すること自体、高いハードルがあります。
本来、議会側から新たな政策提案を行うのであれば、いきなり予算の増額修正という手段をとるのではなく、一定の手順を踏んで進めていくべきと考えます。