2024.01.12
第7回 従業員を自由に解雇できるか
3 就業規則等による制限
労基法89条では、常時10人以上の労働者を雇用する使用者は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければならないとされているところ、その就業規則に記載すべき事項の一つとして、「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が掲げられている。
これを受けて、就業規則には通常、解雇事由に関する定めが置かれている(例えば、「会社は、従業員が以下の事由の一に該当する場合は、解雇することができる。①心身の故障により業務に堪えられないと認められるとき、②勤務成績・態度が不良で改善の見込みがないとき、③事業の縮小等、会社の経営上やむを得ない事情が認められるとき、④その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」といったもの)。
使用者は、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇いずれの場合でも、原則として、就業規則に定められた解雇事由に該当する事実が認められる場合に限り、労働者を解雇することができる。
なお、労働協約(労働組合と会社との間の約束のこと)に解雇手続に関する定めがある場合もある。
4 解雇権濫用法理
また、仮に前記の各制限には抵触していないとしても、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となる(「解雇権濫用法理」、労働契約法(以下「労契法」という)16条)。これは、終身雇用を前提とした日本型雇用システムを背景に、解雇に対する高いハードルが設定され、それが定着してきたことによる。
解雇の客観的合理性とは、労働者の労働能力の欠如、規律違反行為の存在、経営上の必要性など、解雇理由として合理的と考えられる事情が存在することを意味する。
解雇の社会的相当性とは、それらの事情の内容・程度、労働者側の情状、不当な動機・目的の有無、使用者側の事情や対応、他の労働者への対応例との比較、解雇手続の履践など、当該解雇に係る諸事情を総合的に勘案し、労働者の雇用喪失という不利益に相応する事情が存在していることを意味する。
解雇された労働者は、解雇権の濫用として解雇の無効(労働契約上の権利を有する地位)の確認(労契法16条)、解雇期間中の賃金の支払(民法536条2項)の請求とともに、解雇を不法行為として損害の賠償を請求することもできる(民法709条)。