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2024.01.12 議員提案条例

第1回 はじめに~茨城県の議会改革度ランキングと議員提案条例の取組み~

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3 茨城県の議会改革度ランキングと議員提案条例の取組み

(1)議会改革度ランキング(4)
 茨城県議会は、毎年度、早稲田大学マニフェスト研究所が実施している全国の地方議会の改革度ランキングにおける都道府県ランキングのうち、2021年度、2022年度と連続して1位を記録している(図5)。
 評価の要点は、①情報共有(本会議等の議事録や交際費・視察結果の公開具合と検証)、②住民参画(傍聴のしやすさ、議会報告会などの実施、住民意見の聴取)、③議会機能強化(議会本来の権限・能力を発揮するための機能強化情報)の三つについて改善度合いを数値化し、ランキング化しているものである。
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図5 都道府県議会改革度ランキング(2022年)

 2022年度では住民参画の度合いが1位、情報共有及び議会機能強化が3位となっている。特に議員提案条例の取組みの強さが評価されているともいえる。
(2)議員提案条例の状況
 茨城県議会における議員提案条例の制定状況(5)は図6のとおりであるが、2005年を最初に、特に2012年以降は毎年4件程度の実績が見られる。全国的な傾向にも合致して、具体的な行政執行の根拠となるような条例が目立っている。
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図6 茨城県議会における議員提案条例の制定状況(2005年~2022年)

(3)議員提案条例に関する議員と大学生との意見交換会
 茨城県議会は、議会改革度ランキングの「住民参画」の部門が1位となっているように、政策過程における県民の参画に積極的に取り組んでいる。例えば、休日議会を開催して本会議に多くの県民を招いたり、常任委員会において執行部席を県民に開放して議員との意見交換を行ったりすることを、ここ数年頻繁に行っている。また、本学を含めた県内4大学と包括連携協定を締結し、議員提案条例についての議員と学生の意見交換会も開催されている。
 私のゼミもこれに参加しており、2021年度は「茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し共に生きやすい社会を実現するための条例」、2022年度は「茨城県性暴力の根絶を目指す条例」についての意見交換に学生が出席して、条例案についての学生目線のある意味、忌憚(きたん)のない意見を提出した。
 この意見交換会の様子は、最近の茨城県条例の制定過程を考察する中で、次回以降、別途詳述するが、ケアラー・ヤングケアラー支援条例の審議では、前文の「ヤングケアラーを含むケアラーは持続可能な社会を構築する上で重要な役割を持つ」といった積極的な役割を持つ規定に違和感を持つ学生の意見により当該規定は見直され、「ケアを受ける人を支える上で、重要な役割」との規定となっている。
 性暴力根絶条例に関しては、本学の学生からは、高校時代に中年男性の横を自転車で通過しようとした際に素足を触られるといった被害を体験し、日常に生じる性被害の甚大さ、ある意味気軽さを指摘した。また、先行条例である大阪府条例の性犯罪実行者の釈放後一定期間内の住所届出制の運用のあり方を報告し、当該規定の意義を強調するなどした。
 一方、自民党内部での検討においては、住所届出制の違反者に対する過料賦課規定は対象者の範囲が漠然であるとしてその実効性に疑問が指摘され、最終的に過料規定は見送ることになった。自民党主導の議員提案条例の取組みであるが、外部の学生への意見聴取や内部での議論で一定の見直しが図られる効果も認められるのである。
(4)茨城県議会の議員提案条例審議についての批判的見解
 以上のように、本学学生から見ても茨城県の議員提案条例の取組みは、住民参画の手法においても極めて積極的であり、有意義であると評価しうるものなのであるが、そのような中、毎日新聞の特集記事で次のような記事があった。
 すなわち、茨城県議会で議員提案により成立した政策条例のほぼ全てが、議会での実質的な議論を経ずに採決されていたことを指摘し、公の場で内容をめぐる議論が深まらないとの疑問・批判が議会内外で出てきているという問題提起の記事である。定例会の最終日に提案され直ちに採決される状況について、野党系議員からは議論の過程が議事録にも残らず議論する場を設けてほしいという要請があるが、自民党からは市町村や他党との意見聴取等をしており門戸は開いているという反論もあるとする(「県議提案の条例、質疑なく21件採決 提出期限の無視が常態化」毎日新聞2022年9月23日)。
 同様の指摘は、東京新聞、朝日新聞などにも見られた(6)。学生も含めて、私も茨城県議会の議員提案条例の取組みは、その件数や内容、さらには学生との意見交換等のプロセスも含めて極めて意義深いと考えていたのであるが、委員会付託もなく、また、定例会最終日に提案され質疑もなされずに可決されているという審議の側面が極めて脆弱(ぜいじゃく)であることに気づかされたのである。
 議会の本来の役割は、執行部の提案したものを審議することであり、議員提案条例であっても議員間の十分な審議がなされているものと思っていたのであるが、そのような課題があることに十分な認識がなかったことを恥じるとともに、この領域を改めて調査分析する必要性を感じたのである。
 改めて茨城県議会の議員提案条例の状況を見ると、確かに議員提案条例の議会審議はほとんどないといっていい。しかしながら、その代わりに、自民党政調会を中心にプロジェクトチームを組んで検討が行われることが通例である。議員が自らニーズを把握する立場にあることから無意識にそれを是認していたのかもしれない。
 しかしながら、議論がなく、なぜそのような条例が立案され、その具体的な運用や今後の考え方などについての審議や記録がない状況で可決されることは、どう考えても課題があるといわざるをえない。意見交換会なども積極的に行っており、議会の中でも他会派との議論を避けているわけではないと思うが、可能であれば、執行部提案と同様な議論があることが望ましいと思われる。

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