2023.12.11
第5回 どのようなとき少額訴訟を利用できるか
4 少額訴訟の具体例
例えば、「友だちに半年後に返してもらう約束で20万円貸した。友だちは『お金がない』といって1万円しか返してくれていない。一度は支払期限1年後に延期してあげたが、やはり返してくれない。支払期限を延期したときに、未払金額を認める書面に相手にも署名してもらった」といったケースで少額訴訟を利用する場合を考えてみる。
このような場合、訴状とともに証拠として、借用書や相手に署名してもらった書面、返すように求めた日付入り督促状、LINEやメールのスクリーンショットを印刷したものなどを裁判所に提出する。
申立て後、裁判の期日が設定され、期日には、訴えた人と訴えられた人が出席する。その際に、証人がいる場合には証人にも裁判所に来てもらう必要がある。訴えられた人が、その言い分を記載した答弁書や言い分の証拠を提出することなく欠席した場合は、通常、原告の訴えがそのまま認められる。両者の言い分や証拠を調べた後、その場で裁判官が判断を下す。
少額訴訟は原則としてその場で結審するので、裁判官が短い時間で判断を下せるよう、契約書、領収書、借用書、写真など簡単に調べられるものを証拠として準備しておくと裁判官も判断しやすい。
また、少額訴訟は1回の期日で審理を完了することが原則となっていることから、裁判所から期日前に、面接又は電話等により事情聴取されることや、訴状の内容を補充する言い分を記載した書面(準備書面)等を事前に提出するよう求められることがある。
5 少額訴訟で訴えられたときは
少額訴訟手続により訴えられたとしても、裁判所が訴えた人の言い分を認めたわけではないので、その点は不安になる必要はない。呼び出された裁判期日に出席し、訴えられた側としての言い分を述べることができる。言い分を述べる際には、定型の答弁書用紙も利用できる。答弁書の提出方法が分からないときには、裁判所の担当者である書記官に相談するとよい。
ただし、裁判期日を欠席すると不利益な扱いを受ける場合があるため注意が必要である。
最初の期日には、被告としての自分の言い分とその裏付け証拠を全部出せるように、十分な事前準備が必要となる。また、証人がいるのであれば、裁判期日に裁判所に来てもらう必要がある。
被告として支払う義務はあると考えているものの、すぐには支払えないという状況である場合は、その事情を申し出て、支払の猶予や分割払い、遅延損害金の免除の判決を言い渡してもらうことができる。このような支払猶予や分割払い、遅延損害金の免除の判決は、通常の訴訟手続では言い渡されない。支払猶予等の判決が言い渡される場合があるのが少額訴訟手続の特徴である。
裁判所の和解により解決することもある。和解の場合、支払猶予や分割払い、遅延損害金の免除だけではなく、例えば元本の一部免除など、より柔軟な解決が可能となることもある。ただし、原告と被告の両方が合意しなければ和解は成立しない。
6 不服申立てについて
少額訴訟の判決に対する不服申立ての手続としては、その判決をした簡易裁判所に対する異議の申立てを行うことになる。当事者は、判決書又は調書判決の送達を受けた日から2週間以内に判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。
異議申立てがあった場合には、少額訴訟の弁論終結前の程度に訴訟が復活し、通常の訴訟手続により審理及び裁判がされることになる。
異議申立て後の判決については控訴が禁止されており、憲法違反を理由とする最高裁判所への特別上告を除き、不服を申し立てることができない。したがって、事実上、簡易裁判所だけで短期間で紛争が決着することになる。
なお、判決による支払猶予等の定めをしたこと、あるいはその定めをしなかったことについて不服を申し立てることはできない。
7 相談窓口について
少額訴訟は、専門家に依頼すると費用倒れになる可能性がある事件などで一般市民本人が利用できるための手続であるため、弁護士や司法書士などの専門家でなくともできるように簡単な手続で行われることになっている。
もっとも、訴訟という専門的な手続であることから、証拠の準備や記載方法に不安があれば、弁護士や司法書士などの専門家に相談することも有用である。
各司法書士会や各弁護士会でも有料・無料で相談を受けている。また、簡易裁判所の中には同制度に関する相談コーナーを設けているところもある。