2023.10.25
第4回 自動車事故を起こすと、どんな責任があるか
弁護士 千葉貴仁
自動車事故を起こすと、どんな責任があるか。
自動車の運転者が自動車事故を起こすと、民事責任、行政上の責任、刑事責任の三つの責任を負わなければならない。
1 民事責任
(1)民事責任の概要
民事責任は、被害者に対する損害賠償責任のことである。事故を起こした運転者(加害者)本人が負うだけでなく(民法709条。人身事故の場合は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)3条も適用)、これに加えて、例えば、事故が加害者の業務中に発生した場合には、運転者の使用者も使用者責任(民法715条)を負う。また、運転者とは別に、加害車両の運行供用者がいる場合には、この運行供用者も運行供用者責任を負う(自賠法3条)。運行供用者責任は無過失に近い責任であるので、責任を免れることは難しい。
(2)賠償すべき損害項目(主なもの)
① 治療費、通院交通費、葬儀費用(被害者死亡の場合)等
② 休業損害
③ 傷害慰謝料
④ 逸失利益(後遺障害が残った場合や被害者死亡の場合)
⑤ 後遺障害慰謝料(後遺障害が残った場合に上記③とは別に発生する慰謝料)
⑥ 死亡慰謝料(被害者死亡の場合に上記③とは別に発生する慰謝料)
(3)保険による防衛
事故を起こした場合、被害者への損害賠償額が高額になり、加害者が支払に窮することもある。加害者が支払えない場合、被害者の被害回復にならず、最終的には被害者にしわ寄せがいく。このような不幸な結果を可能な限り回避するため、自動車運転者は、強制加入保険である自賠責保険のほかに、任意保険に加入しておくべきである。
なお、自賠責保険未加入で自動車を運転した場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(自賠法86条の3第1項1号)。
(4)時効
令和2年4月1日施行の改正民法により、①不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から3年(民法724条)、②生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、特則として、5年となった(民法724条の2)。同改正前は、民法上の損害賠償請求権の消滅時効は、一律で3年であったが、改正により、人身事故の場合、被害者の保護の必要性が高いことから、5年に延長された。その結果、消滅時効は、物的損害については3年、人身損害については5年である。
また、交通事故の場合の消滅時効の起算点は、事故発生日とは限らず、被害者に後遺障害が残存した事故の場合には、被害者の治療終了時(症状固定時)から起算するため、事故発生日から5年が経過しても、消滅時効期間が経過していないこともあるので注意が必要である。
2 行政上の責任
一般に行政処分と呼ばれるもので、公安委員会から、過料、運転免許の停止や取消しなどの処分を受けることである。点数制度によって管理され、事故時に犯した交通違反の内容により、点数が付される。
行政上の責任は、民事責任とも刑事責任とも別のものであり、示談の有無や刑事責任の有無に関係なく処分される。
3 刑事責任
交通事故で人を死傷させた場合、自動車運転過失致死傷罪又は危険運転致死傷罪に問われる。
自動車運転過失致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、これにより人を死傷させた場合、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。
一方、危険運転致死傷罪は、被害者が負傷の場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられる(同法2条及び3条)。