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2023.10.25 仕事術

第10回 どうする政策条例

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元所沢市議会議員 木田 弥

 埼玉県議会主導による埼玉県虐待禁止条例の改正案が2023年10月4日に提出されましたが、その内容は、県内のみならず全国的な議論を呼び起こしました。
 同条例改正案が、小学生相当の年齢の子どもを「住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置」が「虐待」として禁止行為に位置付けられる内容になっていたことが、議論を巻き起こしたようです。
 10月6日の福祉保健医療委員会を賛成多数で通過したものの、多くの反対意見が全国規模のメディアで噴出したせいか、13日に開かれた埼玉県議会で撤回の手続がとられ、承認されました。
 この条例は、2017年に議員提案により制定されたものです。制定に至る当時の過程については、議員NAVI 2017年10月10日号に、条例制定を主導した議員による詳細な報告が掲載されています(https://gnv-jg.d1-law.com/login/article/20171010/9753/)。
 制定時の詳細はこの報告をご覧いただくとして、条例制定過程も各方面から意見を聴取し、また他会派に目配りするなど、丁寧な議論が行われた形跡がうかがえます。そのためか、このときは全会一致で条例が可決しています。
 この条例制定をはじめ、「議会事務局によると、埼玉県では02年から今年3月までに議員提案により制定・改正された条例が計41件あり、全国の都道府県議会でもトップ」(朝日新聞 2023年10月13日)だということです。
 ほかにも、「ケアラー支援条例」(2020年)、「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」(2021年)、「ひきこもり支援に関する条例」(2022年)「性の多様性を尊重した社会づくり条例」(2022年)など、社会課題の解決のための意欲的な条例を制定しています。

議員提案条例以外の議会改革は進んでいたのか?

 私も埼玉県民ですので、「ケアラー支援条例」や「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」については、聞きかじっていました。一方、条例制定によって飛躍的に社会課題が解決に向かっているという実感は、埼玉県民である私としてはあまり持っていません。
 特に、理解に苦しむのが、「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」です。少なくとも、「ヤングケアラー」や「引きこもり」などは、条例を制定することで問題についての住民の関心を高めることが期待できるため否定しませんが、それらの問題に比べて「エスカレーターの安全な利用」が喫緊の課題であるとは思えません。
 この条例は、エスカレーターを駆け上がってはいけないということを定めた条例です。条例が制定されましたが、埼玉県内の駅では、親切にも急ぐ人のために右側を今でも空けてくれています。理念条例ということで実害もないのですが、条例制定権濫用の印象は拭えません。
 条例制定については、議会の基本的な機能として、地方自治法96条1項1号に「条例を設け又は改廃すること」が定められており、議会主導による条例制定が大事であることは理解しています。しかし、最近の埼玉県議会は、条例制定を通じて課題を解決することより、条例制定することに意味を見いだしていた感があります。
 現在は、議員提案の条例制定に限っては盛んな埼玉県議会ですが、それ以外の議会改革については、早稲田大学マニフェスト研究所「議会改革度調査」ランキングを見る限り、活発とは言い難い状況です。
 2022年度は都道府県中23位、2021年度は同31位。同改革度調査では、「情報共有」、「住民参画」、「議会機能強化」の3分野ごとの得点と順位を総合して順位を決定しています。埼玉県議会は、回答のあった都道府県議会、市区町村議会を合わせた1,416議会中、順位ではそれぞれ「556位」、「243位」、「81位」であり、「情報共有」について課題があることが読み取れます。総合順位では、2021年度が「300位以下」で2022年度が「145位」ですから、「委員会提案または議員提案による条例の制定・改廃の年中実績をお聞きします」という設問が含まれる「議会機能強化」の順位が上がったことで、全体的な順位も上がったようです。
 今回の騒動も、議員提案条例制定などの「議会機能強化」に重点を置くあまり、「情報共有」、「住民参画」が進んでいなかったことによるゆがみが原因だったという見方もできそうです。確かに、埼玉県議会の活動を広報する埼玉県議会だよりを見ても、それぞれの一般質問の質問者が誰なのかが明記されず、また、それぞれの議案に対する各議員の賛否も明らかにされていないなど、県民の私から見ても「情報共有」が十分でないように見受けられます。
 ただ、せっかく議会改革度の順位も上がってきていますので、議員提案条例による議会の「機能強化」に加えて、「情報共有」や「住民参画」への取組みも強化されることを県民としても期待したいところです。
 一方、さすが県議会だなと思えるのが、これだけ多くの議員提案条例を提案できる体制が整っていることです。

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