2023.10.25 医療・福祉
第2回 制度改正論議にみる自立支援と科学的介護の矛盾
介護保険の目的は要介護度の改善ではない
断じて、介護保険の目的は「要介護度の改善」ではありません。では、介護保険法の第1条にある目的を見てみましょう。
(目的)
第1条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
ここでうたわれているとおり、介護保険の目的は要介護者の「尊厳の保持」と「有する能力に応じ自立した日常生活を営むこと」です。よって、本来であれば、これらの目的にかなったサービスに対して介護報酬が支払われるべきでしょう。一部の健康指標などに対してではなく。
そして、さらに、これら介護保険の目的を細かく見ると、前者「尊厳の保持」については、身体拘束や高齢者虐待の禁止などが介護サービスには課されており、比較的、分かりやすいでしょう。しかし、後者「有する能力に応じ自立した日常生活を営むこと」については、明確な定義も基準も明らかにされていません。
つまり、自立に資する介護サービスとは何であるのかが、曖昧なままなのです。もっとも、喫煙が唯一の嗜好(しこう)である90歳の老人から「健康によくない」と取り上げることが自立支援に値しないことは、誰しも想像に難くないでしょう。いや、それは尊厳の保持にさえ影響する事柄かもしれません。
介護報酬の設定方法に対する疑問
つまり、「自立」の何たるかは、一人ひとり異なる部分が多く、画一的な定義は困難です。だからこそ、介護の現場では、一人ひとりの老人の「その人らしい」支援を模索して、日々、努力を繰り返しているわけです。そこに、介護の難しさとやりがいが同居しています。
例えば、その一例として、介護施設などでは、老人が人生の最終章を送るに当たり、どのような生活を、時にはどのような最期を望んでいるのかを知るために、老人と深く関わったり、日々の喜怒哀楽をともに過ごしていたりします。そうした働きかけも含めて、すべてが自立の支援であり、評価の対象すなわち加算や減算の対象とすべきものであるはずです。しかし、それらの評価は、現状は基準などが確立しておらず、採用されていません。
結果として、分かりやすい「ストラクチャー」、「プロセス」、「アウトカム」だけが評価の対象になっているのが現状なのです。
その意味で、表面的な加算ばかりを追い求めることは、本来の「森」である老人の自立支援を見失う危険性が非常に大きいでしょう。しかし、介護の現場としては、少しでも経営を安定化させたいがために、加算などはなるべく取得しよう、となります。国が認めた加算なのだから、それを取得することが良い介護だと考えたり、健康面の自立こそが老人の自立といった薄っぺらな介護観に陥る危険性をはらんでいます。
特に介護とは何かを知らずに、経営観点からしか考えられないような業界コンサルタントほど、声高に「科学的介護に熱心に取り組め!」と吹聴するでしょう。しかし、それはあまりに短絡的な発想といえるでしょう。