2023.10.25
第3回 遺言にはどんな方法があるか
弁護士 上村遥奈
遺言にはどんな方法があるか。
遺言は、人の生前の最終の意思に法律的効果を認めて、その実現を図る制度で、特に相続人間の争いを未然に防ぎ、あるいは均分相続を変更・修正する手段としても利用できる。
1 遺言できる者
① 満15歳に達した者(民法961条)
② 成年被後見人が遺言を作成する場合、2人以上の医師が立ち会い、事理を弁識する能力を欠く状態になかったことを証明する必要がある(民法963条、973条)。
2 遺言できる事項
法律で認められている、次の事項に限る。
(1)身分上の事項
- 認知(民法781条2項)、未成年後見人及び未成年後見監督人の指定(民法839条1項・2項、848条)
(2)相続に関する事項
- 相続人の廃除及び廃除の取消し(民法893条、894条2項)
- 相続分の指定及び指定の委託(民法902条1項)
- 特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
- 遺産分割の方法の指定及びその委託(民法908条1項)
- 遺産分割の禁止(民法908条1項)
- 共同相続人間の担保責任の指定(民法914条)
- 遺言執行者の指定及びその委託(民法1006条1項)
- 遺留分侵害額の負担割合の指定(民法1047条1項2号ただし書)
- 負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の指定(民法1002条2項ただし書)
- 負担付遺贈の目的の価値減少の場合の指定(民法1003条)
(3)財産の処分に関する事項
- 遺贈(民法964条)
- 財団法人設立のための寄附行為(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
- 信託の設定(信託法2条、3条2号)
- 死亡保険金受取人の変更(保険法44条、73条)
(4)その他
- 祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項)
3 遺言の方式
遺言は、民法の定める一定の方式に従ってしなければならず、その方式によらない遺言は無効である(民法960条)。遺言はその有効性や内容をめぐって相続人間で争いになることも多く、書き方を誤ると相続手続がスムーズに進まないこともあるため、実際に作成する際には、行政の実施する法律相談会を活用するなどして、専門家に相談することが望ましい。
民法で定める方式は次のとおり。
(1)普通方式
ア 自筆証書遺言(民法968条)
遺言者がその全文、日付、氏名を自書し、印を押す簡単な方法で、文字を加除、変更したときは付記し署名押印しなければならない。なお、相続財産が多数に上る場合、財産目録を作成して遺言に添付するのが便利であるところ、従来はこの財産目録まで含めて文字どおり全文の自書が必要であったが、2019年1月より、財産目録については自書が求められなくなった(代わりに各頁に署名押印が必要である)。
遺言したことを他人に知られずにすみ、最も簡便な方法であるが、紛失したり発見されないおそれもあった。これを解決するため、2020年3月、法務局で自筆遺言証書を保管する「自筆証書遺言書保管制度」が開始し、これによって紛失などのおそれは一定程度軽減されることとなった。なお、同制度の利用のためには、法務局が別途定めている様式に従って遺言を作成する必要がある。
イ 公正証書遺言(民法969条)
公証人役場に行くか、公証人の出張を求め、2人以上の証人を立ち会わせ、遺言の趣旨を口述して公証人が筆記し、遺言者及び証人が署名押印した上で(遺言者が署名できない場合は公証人がその事由を付記する)、公証人が定められた方式に従ってつくったものである旨を付記し、署名及び押印する。原本が公証人役場に保存され、紛失及び変造のおそれはないが、証人によって内容が知られるというデメリットがある。
ウ 秘密証書遺言(民法970条)
遺言者が遺言書をつくり、署名押印して封筒に入れ、遺言書と同じ印で封印し、公証人と証人2人以上に遺言書であること及び筆者の住所・氏名を申述して提出し、公証人にこれらの申述事項と日付を封筒に書いてもらい、遺言者、証人及び公証人が署名押印する。
自筆証書遺言、公正証書遺言の長所を備えているが、手続が煩雑である。なお、秘密証書遺言として作成した遺言が同時に自筆証書遺言の要件を満たしている場合は、自筆証書遺言としても有効となる(秘密証書遺言は代筆でも作成できるが、その場合、自筆証書遺言としての効力はなくなる)。
(2)特別方式
緊急に遺言を行わなければならない場合などに備え、民法には上記普通方式による遺言のほか、特別方式として四つの遺言方法が定められている。
- 死亡危急者の遺言(民法976条。疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をする場合)
- 伝染病隔離者の遺言(民法977条。伝染病によって隔離された者が遺言をする場合)
- 在船者の遺言(民法978条。船舶中に存在する者が遺言をする場合)
- 船舶遭難者の遺言(民法979条。船舶が遭難し、当該船舶中で死亡の危急に迫った者が遺言をする場合)