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2023.10.11 仕事術

第9回 どうする決算審査②

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事務事業評価表を活用しよう

 以上述べた点は予算の数値的な差異の分析、つまり定量的な評価です。ここまででも、本格的に取り組もうとすれば、相当な手間がかかります。
 議会の決算審査では、予算で設定した当初の行政目的がどの程度達成されたかを審査することも重要です。いわゆる定性的な評価です。この点については、事務事業評価表や政策評価表などの行政評価に関連する文書を丁寧に見ることで、定性的な評価が可能になります。我が市の場合、これらの表には、成果指標として具体的な数値目標と、その目標が達成されなかった場合、達成されなかった担当部局の分析が記述されています。定性的な評価は、事務事業評価表の様式が整い、扱っている範囲も広い自治体の場合は、各担当部局の自己評価を丹念に見ていくだけで、決算審査において問題とするべき項目が見えてきます。
 この際、担当部局の自己評価を鵜呑(うの)みにしてはいけません。特に自分にとって関心の高い事業については、他自治体の事例なども調べて、達成できなかった理由についての自分なりの仮説を持って執行部と議論すべきでしょう。
 ただ、決算審査は一般質問とは違うので、あまり深追いしたり、政策提案まで踏み込むことは、マナーとして避けた方がよいと思います。そういう場合は、一般質問で質問したり提案したりしましょう。
 事務事業評価表は事業についての評価なので、その事業が決算のどこに該当するかをひも付けるには、評価表の形式によってはまたひと手間かかります。事業名と予算項目が一致していればよいのですが、実際には一つの事業に複数の予算項目がひも付いている場合も多く、いったいどの項目で質問すればよいか悩むことになります。
 我が市の場合は、新規事業予算や重要事業予算については、事業名と事業に該当する予算をどの項目から引っ張ってきているかが分かる資料が、予算書の付属資料として執行部によって作成され提供されています。
 しかし、そうした資料がない場合、事業と当該予算とのひも付けが分からないこともしばしばあります。そういった場合は、総括的な質問の時間で改めて確認するか、あらかじめ執行部に確認をしておくという方法もあります。会派の時間割当てがない議会では、各款の審査に入る前に、この事業は決算書のどこに対応するかを確認するというのも手です。

歳入こそ重要

 経験上、多くの議員は、歳入部分への関心が低いようです。しかし、歳入部分こそ、決算不認定の理由を発見できる可能性の高い宝の山です。
 ポイントは二つ。まずは税金に限らず保育園の利用料などの収納率をチェックすることです。この場合、近隣自治体や財政規模が同規模の自治体のデータをあらかじめ確認しておきましょう。他自治体と比べてあまりにも収納率が低い場合は、十分、決算不認定の理由となりえます。
 同時に、不納欠損額と件数もチェックしましょう。不納欠損処理件数が多くなれば、収納率の分母が小さくなるので、見かけ上は収納率が高く見えることになります。直近3~5年の不納欠損の件数や金額の推移も確認しておきましょう。なぜなら、不納欠損を前年度までに一括償却して見かけ上の分母が小さくなっている可能性もあるからです。
 二つ目のポイントが、諸収入や雑入の項目です。これまでの経験では、ここに職員手当不正受給に対する返還金などが含まれていました。我が市の場合、諸収入の「その他」として処理されるので、積極的に説明されることはありません。とにかく、諸収入に「その他」があり、かつ金額も相対的に大きいようであれば、「金額の大きい順に上位三つないし五つの項目と内容について説明していただきたい」といって追及してみましょう。意外な内容が浮かび上がってくるかもしれません。

特別会計は、一般会計からの繰出し、一般会計への繰戻しを中心に確認しよう

 一般会計に比べて厄介なのが特別会計です。例えば、国民健康保険特別会計や介護保険特別会計などは、制度そのものをしっかり理解しないと、読み解くのは相当困難です。少なくとも私は苦手でした。後期高齢者医療特別会計は、市区町村の裁量がほとんどないと考えていたので、私はあまり積極的には質問しませんでした。
 介護保険制度を特に政策の中心に据えて議員活動を行いたいということなら、しっかりと勉強する必要があると思います。しかし、取り急ぎ見ておくべきは、一般会計から特別会計への繰出しや、逆に、特別会計から一般会計への繰戻しの部分でしょう。特に、繰戻しには、何らかの課題が隠れている可能性があります。また、介護保険特別会計については、自治体の自由度が相当狭められているので、自治体の裁量が認められている部分を中心にチェックするとよいでしょう。
 公会計は、日常使っている用語とはかけ離れていることも多く、とっつきにくいことこの上ないです。以上お伝えした内容をお試しいただき、充実した決算審査を行ってください。とにかく、納得がいかない決算であれば、遠慮なく不認定とする気構えで十分に準備をして決算審査に臨んでください。

 

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◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

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