2023.09.25
第1回 パワーハラスメントで精神的不調を来したら
弁護士 中川洋子
パワーハラスメントで精神的不調を来したら。
令和2年6月1日施行の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という)の改正により、パワーハラスメント(①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの。以下「パワハラ」という)に関する法規制が整い、事業主は雇用管理上の措置を講ずる義務が生じるようになるなど、より一層パワハラの予防が必要となった。
もっとも、依然としてパワハラ被害を訴える者は多い。特に問題となるのが心の健康の悪化である。実際、精神疾患や自殺に関する労働者災害補償保険認定の判断基準においては、職場でのパワハラによるストレスも認定判断の査定項目に加えられており、パワハラを原因とする精神疾患について、労災認定の対象となる事例も多数存在している。
しかし一般に、パワハラの存在、そして精神疾患の発症とパワハラとの間の因果関係については判断が難しい例も多い。
そこで、パワハラ被害を訴える者がいた場合には、まずは下記窓口等へ相談してもらうことを検討するのが望ましい。
なお、このような事例で、被害者が所属する組織や加害者と思われる者に対して直接働きかけをすることは、プライバシーの問題や報復措置への懸念等から厳に慎むべきである。必ず、相談者本人から相談させる必要がある。
1 パワハラ相談窓口
労働施策総合推進法の改正に伴い、事業主に対し、相談窓口の設置が義務付けられた。そこで、まずは相談窓口に相談し、事業主としての対応を仰ぐことが考えられる。
2 総合労働相談コーナー
解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げなどの労働条件のほか、募集・採用、パワハラなど、労働問題に関するあらゆる分野について、労働者、事業主どちらからの相談も、専門の相談員が面談あるいは電話で受け付けている。
また、都道府県労働局では、個別労働紛争について、都道府県労働局長による助言・指導や紛争調整委員会によるあっせんも行っている。
3 都道府県労働委員会の個別労働紛争担当窓口
職場で労働者と使用者の間で労働条件に関係してトラブルが発生し、当事者間で解決を図ることが困難な場合、労働委員会で解決の手伝いをしている。個別労働紛争のあっせんを行っている都道府県庁労政主管課もある。
4 法テラス
正式名称は「日本司法支援センター」である。問合せの内容に合わせて、解決に役立つ法制度や地方公共団体、弁護士会、司法書士会、消費者団体などの関係機関の相談窓口を法テラス・コールセンターや全国の法テラス地方事務所にて、無料で案内している。
5 かいけつサポート
法務省では、紛争解決手続を行っている民間事業者の申請に基づいて、法律に定められた厳格な基準をクリアしているかどうかを審査し、クリアしているものを法務大臣が認証する制度を実施している。
法務大臣の認証を取得した民間事業者は、「かいけつサポート」の愛称とロゴマークを使用することが認められている。差別や虐待、パワハラなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話である。電話は、最寄りの法務局・地方法務局につながる。