2023.09.25 仕事術
第8回 どうする決算審査①
決算不認定を覚悟して審査に臨もう
新人議員は、決算を不認定する覚悟で審査若しくは審査の傍聴に臨むことをお勧めします。特に、現状の執行部に対し、例えば「新庁舎建設に反対」や「待機児童の解消を」などと批判して当選した議員は、その批判した項目については、審査の委員会に所属した場合は、しつこく執行部に質問し、問題があれば不認定とする、あるいは附帯決議を付けるぐらいの覚悟が必要です。審査に参加できなかった場合も、認定の段階で附帯決議を付ける努力をする、あるいは思い切って不認定するなどの活動が必要です。
「えっ、いきなり不認定か」と驚かれる人もいると思いますが、残念ながら、現在の決算認定の仕組みでは、不適正な事務執行が決算全体の中では部分的なものであったとしても、遠慮なく全体を不認定としてよいことになっています。
「決算の一部分に問題があるだけなのに、全体を不認定とするのはおかしい」という勉強不足の議員もいます。予算の場合であれば修正議案の提出という手段があり、該当箇所のみの修正が可能です。しかし、決算に部分修正という概念はありません。そのため、決算の一部が認定できない場合、全てを不認定とせざるをえないのです。だからこそ、不認定とすることを躊躇(ちゅうちょ)しないことです。そして、「一部分が気に入らないからといって、不認定はありえない」というようなことを先輩議員や同僚議員からいわれた場合は、平成29年度の一般会計と介護保険事業費特別会計が決算不認定となった藤沢市議会の例や、あるいはやはり平成29年度決算が不認定となった小金井市議会の事例などを挙げるとよいでしょう。
先ほどの令和5年度「市議会の活動に関する実態調査結果」38頁によれば、令和3年度の不認定の実績は、国立市、上尾市、寝屋川市、明石市、香芝市、笠岡市、安芸高田市、田川市、日南市の9市。件数は少ないですが、不認定の市議会は存在します。認定するけれど附帯決議を付した議会は、15市ありました。
決算が実際に不認定にされる割合は、現状の議会では低いのは事実です。決算をまとめた執行部も、提案に向けて議案を練り上げており、議員からすれば、それほど決算に詳しくなく、あるいはこだわりがなければ、否決の余地がないように見えるからでしょう。
ここで、「やはり執行部の皆さんは大したものだなぁ」となってはいけません。一見、何も問題がなさそうに見えても、あえて「何か問題があるに違いない」という姿勢で決算審査に臨まなくてはいけません。それが、議員の義務であるからです。
議員に求められているのは、チェック機関としての「反論する義務(obligation to dissent)」です。この言葉は、議会用語ではなく、ある著名な世界的規模の民間コンサルタント会社が大切にしている価値だそうです。2枚の絵の間違いを探すパズルゲームの場合も、8か所間違いがあるといわれれば、必死に間違いを8か所探そうとする。ところが、もし、この2枚の絵に間違いがあったとしても、「間違いはない」といわれたら、必死に探すでしょうか?
同じことが、議員活動にもいえます。最初から執行部が提案してくる決算議案を完全なものだと思うのか、きっと何か間違いがあるに違いないと考えるのか。その違いが、おのずと議案に対する取組みの違いとなって表れてきます。
実際、私も新人のときに、単純な用語のミスを指摘したことがありました。別の議員からは、「そんなの、アラ探しではないか」という声も聞こえてきましたが、当事者である職員は、非常に慌てていたのが印象的でした。役所にとって言葉のミスは、議員が考える以上に重大なことであると、このとき学びました。同時に、嫌な議員だと嫌われ始めるきっかけにもなったようです。最初は、単純な用語のミスの指摘から始め、勉強を進めていけば、条例上の法律的な瑕疵(かし)(間違い)や違法・不当な状態を指摘できるようになってくるはずです。
そうはいっても、大会派かついわゆる与党会派を標榜(ひょうぼう)する会派で不認定を主張したところで、一蹴されることが容易に想像できます。今回はダメであったとしても、気構えとしてでもよいので「不認定」を目指してください。
まずは、決算審査及び認定についての心構えをお伝えしました。次回は、より具体的な決算審査の勘所について、決算監査を議会選出監査委員の経験も踏まえてお伝えします。
(1) https://www.si-gichokai.jp/research/jittai/__icsFiles/afieldfile/2023/08/07/202300_zenntai.pdf
(2) https://www.town.saitama-miyoshi.lg.jp/gikai/shiryo/documents/nittei/nitteiR5-5.pdf
(3) https://www.city.matsudo.chiba.jp/gikai/shigikai_annai/jikaiteireikai.html
◆書籍情報
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江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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