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2023.08.25 仕事術

第6回 どうする街路樹

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請願審査が行われること自体が圧力に

 同時並行で、街路樹剪定に怒っていたAさんから、街路樹の扱いについて市が方針を定める請願を出してもらい、その請願審査の過程で、伐採について議題として取り上げることとしました。
 請願名は、「街路樹管理指針の制定を求める請願」。Aさんはもっと直接的な請願、例えば「街路樹の強剪定に対して被害届を出していただきたい請願」とでもしたかったようですが、それでは、請願を審議する議員にもいろいろな立場があり、採択されない可能性が出てきてしまいます。もし請願が採択されなかった場合、執行部が被害届を出さないことに議会がお墨付きを与えてしまうことになります。
 ですから、とにかく請願審査の段階で、許可のない強剪定が問題であることが浮き彫りになる質疑が行えるようにする必要がありました。そこで、「街路樹管理指針の制定を求める請願」として、請願の趣旨説明の際に、今回の強剪定の顛末(てんまつ)がきっかけとなった、と請願紹介議員にも説明してもらうこととしたのです。
 委員会審議では、委員から、「器物損壊で刑事告発すべきだ」などの質問も出され、それに対し市の担当者も「市の了解なく3本のケヤキの強剪定が行われたこと、事業者から市に始末書が提出され、その内容は、今後の管理方法として、3年間育成管理し、その間にケヤキが枯れた場合には、それに代わる木を植栽すること。事業者から1本当たり30万円、合計90万円の市の緑の基金に対して寄附の申出があり、これを受け入れた」と回答。これが先ほど一般質問を取りやめた理由となった、業者からの金銭的補償の内容です。また、「今後は事前協議の段階で強く申し入れる」と、請願審議の内容は実質的に、街路樹の不法強剪定の話に収斂(しゅうれん)していきました。請願については趣旨採択されました。
 業者側も私の一般質問の通告内容や、請願が審議されるようになったこと、さらには、全国紙の新聞社の複数回にわたるこの問題についての報道なども相まって、何らかの対応の必要性を感じたのでしょう。
 一連の議会での質問や請願を併せてじわじわと議会で話題にすることで、まず議会内での世論が、そして住民の世論も形成され、90万円の補償という一定の成果が得られました。
 ちなみに、その後、「街路樹管理指針」そのものは制定されませんでしたが、「公共施設緑化ガイドライン」が制定され、その中に「街路樹の維持管理」という項目が記載されることになりました。
 当初は、執行部も業者もこの問題について甘く見ていた気配があります。ところが、一般質問や請願として議会で取り上げられ、新聞でも報道されるようになるといったことが積み重なって、慌てて議会が始まる前に業者側への対応を促した印象です。
 2006年6月14日付けの朝日新聞の記事によれば、「市には今年〔2006年〕1月末、工事を請け負った施工業者から、『(街路樹を)剪定していいか』と相談があった。市が検討していたところ、8月初めに突然切られたという」とあります。この内容にはちょっと引っかかりを感じます。そもそも1月に相談が来て、8か月も対応をしていなかったことも、行政の不作為を感じますし、業者がその後、改めて確認もせずに強剪定に及んだというのも疑問です。もし、街路樹の強剪定の話題が議会で取り上げられることがなかったなら、そのままやり過ごされた可能性もあったといってよいでしょう。
 議会の最大の機能の一つは、問題を問題であると関係者に広く認識させ議論のテーブルに載せることであり、そのためには、一般質問で単刀直入に質問するだけでなく、別の角度からの質問や、住民からの請願、そして報道機関への情報提供なども含めて総合的に取り組むこと、要するにあらゆる手立てを講じて「騒ぎ立てる」ことが重要であるということを、私はこの違法な街路樹剪定の問題から学びました。新人議員の方の戦い方の参考にしてください。

(1) 「黒岩知事、被害届の提出も検討 ビッグモーター街路樹問題」カナロコ(神奈川新聞)2023年7月31日(https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1008872.html)。
(2) 一般社団法人農民連食品分析センター「土壌および枯れた植物などのグリホサート残留分析」(
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/analysis/agr_chems/glyphosate/soil/index.html)。
(3) 滝川市ホームページ「街路樹が伐採される被害(器物損壊)について」(
https://www.city.takikawa.hokkaido.jp/240kensetsu/01doboku/gairojubassai.html)。
(4) NIMBYとは、施設の必要性は容認するが、自らの居住地域にはあってほしくない住民心理を表す表現。
(5)
https://www.city.kobe.lg.jp/a10019/kurashi/machizukuri/flower/gairoju/qa.html

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◆書籍情報
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江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

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