2023.08.25 仕事術
第6回 どうする街路樹
元所沢市議会議員 木田 弥
ちまたでは、中古車販売会社と街路樹との関係についての報道が相次いでいます。おかげで、街路樹について関心が高まっているようです。そこで、当初の予定を変えて、今回は地方議員にとっても悩ましいテーマである街路樹について取り上げましょう。
神奈川新聞によれば、道路からの視認性を高めるために、中古車販売会社が、店舗近くの街路樹を故意に枯らした疑いが持たれています。「中古車販売大手『ビッグモーター』の県内の店舗前で街路樹が枯れ、倒木の危険があるとして神奈川県が伐採していた問題で、黒岩祐治知事は31日の定例会見で、県として除草剤の使用状況を調べる土壌調査を実施していると明らかにした。除草剤の使用などで故意に枯れさせたことが確認された場合、県警に被害届の提出も検討するという」(1)とのことです。
本当に被害届を出すのか、そして、神奈川県警や検察がどのように被害届を扱うのか、その動向に非常に関心があります(同様の動きは、さいたま市や東京都など全国に広がっているようです)。
必ずしもいいことばかりではない街路樹の存在
さて、皆さんなら、こうした問題に直面した場合、どのように対応しますか? 黒岩知事のように、「調査して、被害届を出すべき」と単刀直入に一般質問したいところでしょうか。
私の経験からすれば、これほど世間から騒がれていなければ、執行部が除草剤の使用確認のための土壌中残量農薬検査を行うことは、想定しにくいです。土壌中にある特定の化学物質が残留しているかどうかを調べるには費用がかかるからです。もし使われていた農薬がラウンドアップ(グリホサート)だとすると、1検体当たりの調査費用は2万6,400円(2)です。
農薬を散布した確証もないのに、果たして、どの予算からこの費用を捻出するのか? また、農薬が検出されたとして、その農薬を散布したのが誰かという証拠もつかまなくてはいけません。たまたま散布していた現場を目撃していて、写真を撮っていたとしても、写真に散布農薬の容器などが写り込んでいないと、証拠とはみなされません。もしグリホサート以外の農薬の場合、残留農薬が検出されず、さらに検査をするのか、その時点で調査を打ち切るのか。
さいたま市では、早速、街路樹が枯れた土壌の検査をしたところ、グリホサートが検出され、また、店長も除草剤を散布したことを認めたそうなので、被害届も出しやすいでしょう。土壌の検査が可能だったのも、世論の後押しがあったからでしょう。
街路樹を故意に損壊させた場合、「器物損壊罪(刑法第261条:三年以下の懲役または30万円以下の罰金)及び道路付属物損壊(道路法第101条:三年以下の懲役または100万円以下の罰金)に問われることがあります」(3)。
ただし、誰が街路樹を伐採若しくは枯らしたか、因果関係の立証は、さいたま市のように、当事者が犯罪行為を認めてくれなければ厄介です。
街路樹は、暑い夏には日陰をつくってくれるありがたい存在ですが、秋には大量の落ち葉が発生し、近隣住民を困らせます。イチョウ並木周辺では、落ちてきた銀杏(ぎんなん)が歩行者に踏みつぶされ、街路樹周辺に異様な臭いを漂わせます。
ここ1か月ほど、私の住まいから最も近い駅前の大きなけやきの街路樹に、夕方になると大量のムクドリが集まり、大きな鳴き声や道路に落下するふんにより、周辺の住民や通行人を困らせています。夜11時に帰ってきたときにも、ムクドリが街路樹周辺に集団で集まって鳴いていました。
あれでは周辺の人たちは安眠できないでしょう。おそらく住民からの苦情もあったためか、ムクドリの生息場所とさせないために、市は、ムクドリが集まってくる街路樹をほぼ丸裸にしました。周辺住民は安堵したでしょうが、想像するに、通りすがりの住民からは、なぜあんなに剪定(せんてい)したのだという苦情も市に寄せられていることでしょう。
街路樹はNIMBY(Not In My Back Yard)(4)、つまり通りすがりの街路樹は大事にしてほしいけれど、自分の家の近くの街路樹は落ち葉なども処理しなくてはならないので、典型例といえるでしょう。
少し大げさにいえば、地方議員の仕事の一つはNIMBYとの戦いです。
街路樹に関して住民から苦情が持ち込まれた経験のない地方議員はいないといってもよいでしょう。試みに、皆さんの市議会の会議録検索で、「街路樹」というキーワードで検索してみてください。驚くほど多くの件数がヒットするはずです。
我が市議会も、検索システムが稼働した平成6年から現在まで、毎年必ず街路樹に関する質問があり、総計254件がヒットしました。
ちょうど神戸市のサイトに「街路樹管理よくある質問」(5)が掲載されています。このサイトには代表的な苦情や苦情に対する返答例が掲載されていますので、参考にされるとよいでしょう。