2023.08.10 仕事術
第5回 どうする議会事務局①
議会事務局の限界を議会の限界にしてはならない
執行部の権力中枢からの圧力が弱まったとはいえ、議会事務局が「議会基本条例の制定に関する特別委員会」の設置に手放しで協力してくれたわけではありません。当初は、議会事務局側も、「特別委員会といっても、これまでどおりのお勉強会で、適当にお茶を濁しておしまいだろう」と高をくくっていたようです。
この特別委員会の委員長に就任した私は、条例の制定を前提として特別委員会を運営することを決意していました。それまで私が経験した特別委員会は、ゼロベースで話し合い、その上で何らかの成果を達成しようというものでした。そういった従来のやり方では、なかなか条例制定にまで達することができないことを、新人議員として加わった「政治倫理に関する特別委員会」の委員を経験して感じていました。この特別委員会では、ゴールを政治倫理条例制定としておらず、「条例制定までいくといいなあ」という安易な委員会運営であったため、改選期を迎えて時間切れとなり、政治倫理規定の制定にとどまってしまいました(その後は政治倫理条例に格上げ)。
「議会基本条例の制定に関する特別委員会」では、バックキャスティングで、明確にいつまでに条例を制定するかを決め、そのためには、いつまでに何をすればよいかということを記した工程表を作成しました。委員会名も、当初は「議会基本条例に関する特別委員会」でしたが、それでは「政治倫理に関する特別委員会」の轍(てつ)を踏む可能性があったため、委員長特権で「議会基本条例“の制定”に関する特別委員会」と名称を改めました。
また、当初から条例素案を作成し、その素案に対して各委員から意見をいただきながら最終案を目指すこととしました。
こうした矢継ぎ早の対応に、特別委員会の担当となった職員は戸惑い気味でした。従来の特別委員会の開催ペースでは、目標としている時期までに条例制定はおぼつかないことが分かったので、週1回のペースで委員会の開催を予定しました。ここで、担当職員からは、「それだけの委員会を開催できる予算はありません」と釘を刺されました。当時は、委員が委員会に出席するたびに費用弁償が支払われており、費用弁償の当初予算額を超えそうになった時点で、予算の制約もあり、委員会が開催できないというのです。もちろん予算だけではなく、委員会となれば議事録作成も行わなくてはならず、職員の負担も増えますし、場合によっては残業代も発生します。そこで当面は、条例素案については、分科会で策定することにしました。分科会は正式な委員会ではないので、費用弁償を支出する必要はありません。
また、条例素案を策定するに当たり、本来であれば議会事務局に他市町村の議会基本条例制定の先進事例についてまとめた資料を作成してもらいたかったのですが、そこまでの協力はできないと担当の議会事務局職員からいわれました。そこで、事務処理能力や政策提案能力の高い副委員長のA議員に分科会のリーダーになってもらい、資料の作成と検討を担ってもらいました。
分科会には、「職員の方は出席しなくても構いません」と伝えましたが、さすがにそうなると、議会事務局としては特別委員会の動向を把握できなくなるため、「出席したい」とのことでしたので、議事録を作成いただくわけでもないので傍聴してもらうこととしました。
工程表の作成なども議会事務局を頼らず、私が作成しました。以後、この分科会方式は我が市議会のお家芸ともなり、別の特別委員会や常任委員会でも、分科会の設置が相次ぎました。
素案作成のための資料をA議員が作成したこと、週1回のペースで分科会を開催したことによって、特別委員会所属の議員も当然ながら他市町村の事例に詳しくなりました。
この一連のプロセスを経て学んだことは、特に新しいことに取り組む場合は、議会事務局を頼りとせず、議員自らが率先して、手を動かすことです。
その後は、機会を捉えて、議会出席のための費用弁償制度を廃止しました。これによって、少なくとも予算に応じた委員会の開催という制限はなくなりました。
議会事務局の物理的制約(予算・人員・能力など)を言い訳にして新しい取組みを避けてはいけないということを、新人議員の皆さんには理解していただきたいと思います。
次回は、予算の修正という執行部の核心的利害に直接手をかけたために、執行部(議会事務局の一部を含む)から激しい抵抗を受けた話です。
◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)
江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。