2023.07.25 医療・福祉
第1回 次期法改正、包括センター機能の一部をケアマネへ委託することへの懸念
ケアマネ業務との乖離(かいり)
この後者のケースに対して、総合相談先である包括センターがとるべき対応とはどういった対応でしょうか。「高齢者の問題ではないから関係ない」と切り捨てるわけにはいかないでしょう。
となると、このケースの息子が何らかの支援を必要とするか否かを慎重に見極めた上で、仮に支援を必要としている場合には、適切な支援機関へつなげていくことが求められるのではないかと思います。
当然、このような対応をする上では、介護に関する知識だけでなく、精神疾患やそれを支援する機関や制度などの知識も必要になってきます。それだけでなく、経済的困窮や就労に関する問題も関係しているかもしれません。
また、先方から相談に来ているわけでもないケースに対して、以上のようなことを情報収集したり、アセスメントするのは非常に難しく、空振りに終わることもあります。もちろん、そうした業務に対する介護報酬上の対価もなく、無駄足になってしまう場合もあります。
つまり、包括センターに舞い込む総合相談では、非常に広い守備範囲が求められ、かつ、それらの対応が直接的に介護報酬に結びついているものでもないため、現行のケアマネジャーの業務になじまないと考えます。おそらく、制度設計的には(質の高いケアマネ事業所と介護報酬上はみなされている)特定事業所や在宅介護支援センターなどが、総合相談の受託対象とされるでしょう。それでも、現行のケアマネジャーは介護保険サービスの調整に終始することが大半であり、対応困難と考えます。
時計の針に逆行
また、包括センターが誕生した歴史的背景から考えても、ケアマネ事業所が総合相談を請け負うのは困難であることが推察されます。
というのも、2006年度に包括センターが誕生するまでは、同様の役割を在宅介護支援センター(老人福祉法)が期待されていました。しかし、在宅介護支援センターはケアマネ事業所も併設していたために、結果的にケアプラン作成とケアマネジメント業務のウエイトが大きくなりました。
つまりケアマネ事業所と役割がほとんど一緒になってしまい、総合相談の機能やケアマネジャー支援、地域全体のマネジメントといった本来、期待されていた役割が不十分であったり、曖昧であることが問題となったのです(厚生労働省 2004.09)。そこで、包括センターの構想が次のように練られたのです(厚生労働省 2004.07)。
① 地域の高齢者の実態把握や、虐待への対応など権利擁護を含む「総合的な相談窓口機能」
② 「新・予防給付」のマネジメントを含む「介護予防マネジメント」
③ 介護サービスのみならず、介護以外の様々な生活支援を含む「包括的・継続的なマネジメント」
以上、見てきたように、包括センターは、総合相談などの機能と(要介護認定者の)ケアマネジメントを切り離す必要性を背景に誕生した経緯があります。にもかかわらず、次期改正において総合相談をケアマネ事業所へ委託可能とすることは、時計の針を巻き戻すことになります。それは、結果的に在宅介護支援センターと同じ轍(てつ)を踏む可能性を秘めており、高齢者虐待の増加などに跳ね返ってくるのではないかと案じるのです。
■参考文献
◇厚生労働省(2004.09)「全国介護保険担当課長会議資料」(2004年9月14日)(https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigi/040914/index.html)
◇厚生労働省(2004.07)社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」(2004年7月30日)(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/07/dl/s0730-5a.pdf)