2023.05.25 仕事術
第2回 どうする会派②
会派の明確な定義はない
さて、ここからは、会派という存在に関わるリクツについても、少し整理しておきたいと思います。私も、当初は「1人会派こそが議会のあるべき姿であり、会派制などといった徒党を組むことはよろしくない」と考えていました。理由は後で述べます。
しかし、期数を重ねるうちに、様々な事情もよく理解できるようになってきて、新人時代はなるべく1人会派を避けた方がよいと、新人にアドバイスするようになりました(もちろん、議会の諸々の事情が分かってきたら、あえて1人会派を選択することはやぶさかではありません)。
というのも、地方自治法(以下「自治法」といいます)に慣れてくると分かるのですが、残念ながら、現在の自治法上では、地方議員には、「議員」個人に対しての「権限」はほとんど付与されていません。自治法第2編第6章「議会」の第2節「権限」に、議会の「権限」が掲げられています。96条には、議会の議決すべき事件項目が15掲げられていますが、この議決すべき事件の主語は「議会」であり、「議員」ではありません。「議会」としての「権限」を発動するためには、多数(最低、過半数の賛同者)を確保しなくてはならないというのが、地方議会の大原則というか、議会制民主主義の大原則であると、まずは捉えておくことが重要です。その賛同を得るためには、代表者会議と議会運営委員会に、自らが、あるいは志を同じくする同僚議員が参加していないと、議案の提案も修正動議も、あるいは議会の改革もなかなか先に進めることができないからです。ですから、議会内で多数派を形成するためには、「会派」という枠組みが、どうしても必要になってきます。
一方、今述べてきたような事情も少し変化しつつあるようです。これまでは、「議会」の役割は規定されていましたが、「議員」の役割は曖昧でした。そこで、2023年4月に自治法が改正され、「議員」の役割を明確化する規定が新たに追加されました。
「第八十九条中『普通地方公共団体に』の下に『、その議事機関として、当該普通地方公共団体の住民が選挙した議員をもつて組織される』を加え、同条に次の二項を加える。
普通地方公共団体の議会は、この法律の定めるところにより当該普通地方公共団体の重要な意思決定に関する事件を議決し、並びにこの法律に定める検査及び調査その他の権限を行使する。
前項に規定する議会の権限の適切な行使に資するため、普通地方公共団体の議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない。」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000879387.pdf)
「何だ、この程度の追加で何が変わるのか」と思われる新人の方も多いと思います。しかし、少し丁寧に読み解くと、条文では、「議会は……権限を行使する」→「権限の適切な行使に資するため……議員は、……その職務を行わなければならない」とあります。どう解釈するかにもよりますが、少なくとも私は、「住民の負託を受けた議員が、会派の拘束などという訳の分からない理由で、本来反対すべき議案にしっかりと反対しないのはおかしい」と解釈すべきと考えています。この改正を、議会が真摯に受け止め、どのように議会内のルールに反映させるか次第ですが。
実際には、地方議会でも、町村議会は会派制を採用していない場合もあるようです。先日もある町の町長とお話ししたところ、議会に会派制を導入するように促したと語っていたので、それまではやはり会派制ではなかったのだと理解したところです。
小規模地方議会で会派制がなじまないのは、庁舎に会派の部屋を複数確保できないという物理的な理由もあるようです。私が視察で訪問した当時の人口3万人のある市議会では会派制を採用していますが、市議会議員の控え室が一つの大きな部屋でした。そのため、議会としての一体感は非常に強いという話でした。
では、なぜ多くの議会で、会派制を前提とした議会運営がなされているのでしょうか?
そもそも、地方議会は二元代表制であり、国会のように議院内閣制ではありません。二元代表制の場合、議会から首長を選べず、住民の直接選挙によります。議院内閣制は、議員の多数会派から行政のトップ、国会でいえば総理大臣や各大臣を選出する仕組みです。
そのため、先ほども述べたように、「1人会派こそ議会の基本であるべきだ」というのは、二元代表制である地方議会には会派はいらないと考えるからです。現実には、厳然と規模の大きな地方公共団体の地方議会には会派が形成されてきました。その理由としては、①議会内で多数派を形成するためには、「会派」という枠組みは有効であること、②2000年の地方分権改革以前には、地方自治は事実上3割自治といわれていて、残り7割は国の行う事務を地方公共団体が代わりに実施する「機関委任事務」が主流であったため、住民の要望を実現させるためには、都道府県議会議員や国会議員と連携して取り組む必要があったこと、③国政選挙が中選挙区制であった時代は、国会議員、都道府県議会議員、市区町村議員と、縦割りで強固なグループが形成されており、そのグループが、市区町村では会派という形で徒党を組んでいたこと、が挙げられると私は理解しています。
つまり、地方議員が政党や派閥ごとに、今以上に見事に系列化していたということです。首長選挙も、この系列ごとの戦いとなる場合が多く、首長当選後は、その系列の会派は、あたかも議院内閣制の与党のごとく振る舞うという実態があったようです。
そうした時代が長く続くと、地方議会の物理的な構造として、会派ごとの部屋を準備することになり、庁舎建替えの際にも、当たり前のように会派ごとの部屋が準備され、事実上「会派制」が固定化し、デファクトスタンダードになったのではないかと理解しています。
現在は、特に保守系の場合は、そこまで系列化がはっきりしておらず、我が市議会の場合も保守系会派は、三つに分かれています。現在の庁舎建替え時には想定していなかった会派数のため、常に会派の部屋が不足気味になり、私のように、三つの1人会派が一つの部屋に同居するということもあります。
地方自治において二元代表制が前提である以上、会派の定義は、自治法には記載がありません。会派という用語は、自治法100条14項に「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない」と書かれているだけです。
平たくいえば、政務活動費は、会派ごとに交付してもよいし、個々の議員に対して交付してもよいということです。自治法は、「細かい方法は条例で決めてね」という建付けになっています。ですから、ある議会は1人会派は会派とみなさず、別の議会ではみなす、ということが許されるわけです。