2022.09.26 医療・福祉
【セミナーレポート】いきがい・助け合いサミット in 東京 共生社会をつくる地域包括ケア~生活を支えあう仕組みと実践~
「助け合い活動に対する行政の後方支援のあり方」
第1部パネル・分科会11では、医療経済研究機構主席研究員の服部真治氏が進行役を務め、地域住民による助け合い活動に対する行政の後方支援のあり方について議論が繰り広げられました。
●総合事業の活動実態
厚生労働省が実施した令和2年度の介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」と表記)の実施状況調査によれば、地域住民による助け合い活動への補助事業となる総合事業の訪問型サービスB、D、通所型サービスBは、制度開設から6年が経過した令和2年度においても、8割以上の市町村で実施されていないという結果が出ています。
この結果を受けて、本分科会では、地域住民による助け合い活動の「特性」を確認し、「特性」を理解して構築された名張市、大阪市、大川市の制度が紹介されました。
●各自治体の取組み
名張市では総合事業の制度開始前から、住民の地域に対する高い当事者意識を感じ取り、地域住民による自治の仕組みを確立させていました。現在では、その活動の後方支援をするために「総合事業」や、「重層的支援体制整備事業」等を柔軟に活用しています。具体的には、住民が地域課題を自主的に解決できる小学校区ごとの組織「地域づくり組織」を整備し、その活動資金として使途自由な一括交付金の交付を実施しました。その活動を行っていくことで平成20年に名張市で自発的に生まれたのが、住民参加型の生活支援サービスでした。現在の名張市では、この活動を総合事業訪問型サービスBに位置づけました。さらに名張市ではこの活動を後押しするために『ささえあい補助金』を用意しました。この補助金は、生活支援サービスが総合事業に位置づけられた後も、地域の元々の活動を壊したくないという想いから介護認定や、チェックリスト、給付管理も不要としました。また、社会資源の創出を後押しする包括的支援体制の構築にも「重層的支援体制整備事業」を活用することで介護保険財源をベースに力を入れ、地域のくらしの負担を受け止める相談支援の専門職が地域の活動を後押しする『まちの保健室(地域包括支援センター)』を用意し、地域が安定して活動を続けれられるように後方支援を行っているそうです。現在、この活動は15の地域のうち、11の地域で実施され、市内カバー率70%以上、支援件数は年間25,000件と地域住民にとって無くてはならないものになっています。住民の地域に対する高い当事者意識、そしてその活動に対して行政が的確な後方支援を実施できていることが、この結果につながっているように思われます。
他にも、「介護予防・生活支援サービス事業」を実施するにあたり、支援者と要支援者のコーディネートを委託することで、住民による高齢者への支援活動を推進した大阪市の「住民の助け合いによる生活支援活動事業」の話や、「地域医療介護総合確保基金」を活用することで、「総合事業」の対象である高齢者だけでなく、幅広い人を活動者の対象としたボランティア活動を実現している大川市の話がありました。
パネリストの方々は共通して「地域住民ができること、既にできていることをベースに事業を構築することが大切」という旨のお話をされていました。
●各自治体の取組みを参考にするには
また、議論の進行役を務めた服部氏の「制度等を活用しようと、自治体が事業内容の枠組みを制度に沿って決定し、地域住民に提案するのではなく、地域住民の意見をよく聞き、地域の課題をどのように支えるか、目的から考え、目的達成のためにどの手段(制度等)を使うか考えることが大事である」という発言が印象的でした。各市町村で実情も違うため、今回紹介された自治体の取組みはそのままの形で取り入れることは難しいかと思いますが、地域住民を主役にする考え方はどの自治体でも取り入れることができると思います。
●今回のサミットをとおして
最後の全体発表会では、全体シンポジウムについて「誰一人取り残さずウェルビーイングに暮らせる社会を目指して、住民が分かち合い、支え合う地域共生の環境をみんなで広げていこう」と提言し、終了しました。
地域共生社会の実現に向けたヒントを、多角的な視点から得ることができたサミットでした。地域共生社会の実現においては、その土地で生活する地域住民の力が必要であることを学び、必要性を訴えるだけではなく住民が自ら参加したいと思えるような仕組みづくりが今、求められており、地域の実情に合った仕組みをいかに構築できるがが大切なのだと感じました。地域共生社会実現への道のりとして、ここで得たヒントをどのように活かしていくかを考え続けていきたいです。
◆「いきがい・助け合いサミット in 東京」共生社会をつくる地域包括ケア~生活を支えあう仕組みと実践~(主催:公益財団法人さわやか福祉財団) ホームページ:https://summit.sawayakazaidan.or.jp/