2022.09.26 医療・福祉
【セミナーレポート】いきがい・助け合いサミット in 東京 共生社会をつくる地域包括ケア~生活を支えあう仕組みと実践~
地域共生社会への進展~住民全体で大ジャンプ~
全体シンポジウムでは、さわやか福祉財団会長の堀田力氏が進行役を務め、中央大学法学部教授の宮本太郎氏、京都大学人と社会の未来研究院教授の広井良典氏、豊中市社会福祉協議会事務局長の勝部麗子氏、きらりよしじまネットワーク事務局長の高橋由和氏の4名がパネリストとして登壇し、「地域共生社会への進展 〜住民主体で大ジャンプ〜」をテーマに「地域共生社会とは?(その意義)」、「なぜ地域共生社会なのか?」について議論しました。
●ケアの価値を高める「ワーク・ライフ・ケアバランス」
宮本氏は、社会においてケアが尊重される重要性を述べ、コロナ禍でケアの価値があらためて認識されたことを踏まえ、ケアの価値を抜本的に高めるためには、誰もがケアに関われる労働条件の整備やケア専門職への適切な処遇が必要であることから、「ワーク・ライフ・ケアバランス」を提唱しました。
「ワーク・ライフ・ケアバランス」とは、「ケア」を「ワーク」・「ライフ」と同等の価値や重要性があるものとして捉えた考え方です。具体的な取組み内容として、誰もが家族や地域のケアに関われるよう長時間労働を見直すこと、ケアを専門として働く人にはその能力にふさわしい処遇を与え、皆が適切にケアに関われる条件を作ることがあげられます。誰もが誰もをケアできる社会が、この「ワーク・ライフ・ケアバランス」の目指す先です。
そもそもケアの本質は、相手へ「あなたの存在自体に価値がある」ことを伝え、その価値を実際に感じさせられるような居場所と役割を与えることなのだと宮本氏は述べました。そしてそうした居場所づくりは、「つながる・つなぐ・場を作る」こと、つまり困っている人とつながり、その人が輝ける場所へとつなげ、そういった場所をさらに作っていくことにより実現するといいます。「居場所づくり」に成功した具体例として、ひきこもりの若者を地域創生の担い手として協力を仰ぎ、地域課題解決の場へつなげた秋田県藤里町の事例や、細かいことが気になってしまう性格を生かした、ひきこもり当事者・経験者主体の会社「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」の事例を挙げました。
●持続可能な社会を実現する地方分散型社会
続いて広井氏は、持続可能な地方分散型社会の実現が、地域共生社会のカギとなることを述べました。広井氏によると、現在各地域の持つ固有の価値や、風土的・文化的価値の多様性への関心から、若い世代を中心に地方移住への関心が高まっており、移住者が増加すれば結果として地方分散につながり、昭和から続いていた「東京一極集中」の流れとは「逆」の流れや志向が生じるとしました。
このように地方の価値が再発見され、ローカル志向の若い世代が増えている今日、こうした流れを支援する政策が求められると述べました。持続可能な社会という観点から見ても、東京一極集中の対極となる地域分散は望ましく、多様な働き方・住まい方・生き方が期待できます。
一方で、移住した先の地方で作るべき新しいコミュニティができていないという課題も指摘しました。広井氏によると、日本社会の現状は東京一極集中で出来上がった古いコミュニティが崩れているものの、地方分散によってできるであろう新しいコミュニティもまだ出来上がっていない状態であるそうです。新しいコミュニティの事例として、企業を定年退職後、森林インストラクターの資格を取得し地域に根差した活動を行う「鎮魂の森コミュニティ・プロジェクト」を行う宮下佳廣氏を紹介し、持続可能な社会につながる新しいコミュニティの形を示唆しました。
●誰一人取りこぼさない多機関協働の仕組み作り
勝部氏は、地域共生社会への新たなステージへ進むために必要なこととして、①困っている人を1人も取りこぼさないこと、②排除ではなく包摂すること、③支えられた人も支える人になること、④全ての人に居場所と役割を与えることの4つを挙げました。 ①について勝部氏によると、真に困っている人は声を上げることすらできず、支援が届かない恐れがあります。困っている人を1人も取りこぼさないためには、行政の力に加え、住民の力が必要であると述べました。近隣住民であるからこそ気がつく異変、行える声かけがあり、実際に行政の支援が入り込めない事例が、近隣住民の声かけにより解決へ向かったことがあるそうです。このように、制度の狭間を支える官民協働の仕組みづくりが、これからの地域共生社会の課題となると述べました。
また②については、近年他者に対して無関心な人が多いと指摘し、排除するのではなく皆で見守り、困っている人を発見し困りごとがあればともに解決していこうとする「発見力」と「解決力」を大切にしようと訴えました。
③については、支えられていた人も支える人になれることを述べ、ひきこもりの若者が不登校の児童の学習支援を行っている事例を紹介しました。他者の支援を行うことで自信を取り戻していくこと、他者とコミュニケーションを取るきっかけとなります。このことは④の全ての人に居場所と役割を提供することにもつながっており、こうした人々が支援を行うことで、再び①の早期発見のためのつながりづくりになります。
このような仕組みづくり実現のために、多機関で連携できる仕組みづくりが重要であると締めくくりました。
●安心して暮らし続けられる地域社会へ
最後に高橋氏は、地域再生のために設立した地域の全世帯が加入するNPO法人(きらりよしじまネットワーク)の活動を紹介しました。同法人では、住民が主体となって地域づくりに関わり、住民同士の交流を通して生活課題を共有しあうなど、住民が互いを支えあう仕組み作りを地域の中で行っています。
様々な課題が散見される地域の再生にあたって始まった同法人の立ち上げは、地区公民館事務局のメンバーによって始まりました。丁寧な住民説明を行い住民の合意を徐々に得て、立ち上げへの着手から5年後に法人格を取得しました。
立ち上げ後も組織運営に力を入れており、地域の若者を法人の事務局として採用する将来の担い手育成、NPO法人でありながら民間企業の経営手法を取り入れて本格的なマーケティング教育を行っているそうです。また、住民ワークショップを通して地域の課題を把握し、そこで出た課題を自分事として捉える「わがごと化」、内容にかかわらず地域で出た課題は地域でまるごと解決できる「まるごと化」による地域包括ケアの形成を図っています。その中でも合意形成のシステムとして「決めない会議」と「決める会議」の2層の仕組みを構築しました。「決めない会議」では住民ワークショップやアンケートにより地域の意見や要望、課題の集約を行い、事務局がその意見を基に事業化の可否を検討します。その後「決める会議」でその事業の精査、予算などの取り決めを行い、最終的に決定事項はすべて住民に公表されます。
こうした住民皆が参加する地域運営組織の形成と地域包括ケアのかけ合わせによる、地域の中で単身でも病気になっても安心して暮らし続けられる地域づくりの重要性を述べました。