2022.09.26 政務活動費
第5回 政務活動費におけるマニュアル等の法的有効性と具体的支出の適否について
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
1 手引き・マニュアルの法的有効性
政務活動費の支出に当たっては、地方自治法100条14項で「政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない」と規定され、経費については条例で使途基準が規定されている。しかし、条例の経費ごとに規定された使途基準だけでは実際に政務活動費から経費を支出するに当たり具体的な支出の適否を判断することが難しいことから、各議会において政務活動費の支出に関するマニュアルや手引き、要綱等が作成され、具体的支出の判断基準とされている。
ここで問題となるのは、政務活動費の支出に関するマニュアル等の法的有効性である。
一般的に、政務活動費の支出に当たり違法か適法かの判断基準となるのは、政務活動費に関する条例又は規則、規程であり、そこに規定がなければ当該地方公共団体における準用可能な条例等である。マニュアル等はあくまで法律ではないので法的有効性はないと考えられるのは当然であり、長野地判平成19年10月12日や静岡地判平成20年12月26日等で法的有効性を認めないとされていた。
しかし、現状においては、仙台高判令和元年10月29日や名古屋高判令和2年1月15日等において政務活動費の支出に当たり、マニュアルや手引きを政務活動費の使途基準に規定された費目の支出に当たっての適合性判断の参考とすべきであるとする判決が相次いでいる。すなわち、現状では、議会が自ら定めたマニュアル等は地方自治法や条例等に照らして不合理とはいえない限り、一種の法的有効性が付与されていると考えられることから、マニュアル等での規定によっては他の裁判例で認められる支出が認められないこともありうる点に留意が必要である。
【仙台高判令和元年10月29日】
手引きは条例及び条例施行規程に基づき、政務活動費にかかる交付の実務を具体的に整理したものであり、法規範性を有するものではないものの、議員の調査研究活動の基盤の充実を図ることによって地方公共団体の議会の審議能力を強化するとともに、政務活動費の使途の透明性を確保するために設けられたものであり、現に政務活動費の支出は本件手引きに基づき運用されていた事情を踏まえると、本件条例の定める使途にかかる適合性判断にあたって十分に参考にされるべきものである。
【名古屋高判令和2年1月15日】
A市議会においては、従来A市議会政務調査費の交付に関する条例を受けて、その規則で政務調査費の使途基準を定めたうえ、A市議会の政務調査費改革検討会で検討し、代表者会議の了承を得て、A市議会政務調査費運用の手引きが作成されていたところ、法の一部改正を受けて、上記条例を改正してA市議会政務活動費の交付に関する条例を制定するにあたって、政務調査費の使途基準を政務活動費を充てることができる経費の範囲として条例で定めることとしたが、法制執務の関係から、上記規則別表の各項目に記載されていた使途基準の例示を条例で規定することができなかったことから、政務調査費運用の手引きに例示をも盛り込んで手引きとしたことが認められるから、手引きは、条例及び規則をもとにその細則として相当な手続きを踏んでA市議会議員の総意に基づいて作成されたものということができ、かような作成手続きに照らしても条例もしくは規則に準じる、その規範として一定の効力を認め得るものというのが相当であり、使途基準に適合するか否かの判断にあたって、法及び条例に照らして不合理といえない限り、これを参酌することが違法となるとはいえない。