2022.07.25 リーガルマインド
第2回 剣太事件概観─剣太誕生・事件当日・部活・被害者として
2 事件当日
2009(平成21)年8月22日、剣太は、出かけた。大好きな奈美さんの特大おにぎりを持って。しかし、剣太の「ただいま」の声を聞くことは、もうない。
剣太事件は、新聞やテレビでも大きく取り上げられた。
熱中症・熱射病による学校事故死として取り上げられることが多いが、実際は、剣道部活中に、顧問教員が過酷な稽古を特に剣太一人に集中的に課し、剣太が限界に至り、熱中症が発症しているにもかかわらず、稽古をやめさせず、あろうことか、熱中症で意識を失い倒れた剣太を殴る蹴るなどして、救急車搬送を遅らせ、結果死に至らしめた凄惨な事件である(大分地判平成25年3月21日・平成22年(ワ)222号(判例時報2197号89頁))。
奈美さん作成 当日の事件時系列
事件後5日目ぐらいから、英士さんは、部員の家を回って当日の部活の状況に関して、
事実関係の証言取りを行ったのである。本当につらい作業であったという。
英士さん、奈美さんによる剣太事件の一連の裁判での訴えによって、この10年で相当程度全国での部活指導のあり方の改善がなされたとの評価がある一方で、残念ながら今でも部活動において、個々人の身体的状態や意思にかかわらず、強制的にハードな練習で追い込むことが必要であると公言する(当該事案の顧問教員の裁判での発言)指導者が子どもたちの指導の最前線で指揮をとっている(2)。こういった考え方自体が子どもたちの命を奪うことにつながる。当該教員等への教育は、不可欠である(3)。
なお、本事件においては、剣太の名誉のためにぜひ付記しておかねばならないことがある。剣太を剣道の道にいざなった英士さんはもちろん、剣太と11年間もの間、ともに剣道に打ち込んできた1歳違いの風音も、剣太が剣道の練習でギブアップをする姿は見たことがないし、剣道の厳しい練習において弱音を吐いたことを聞いたことがない。その剣太が、この日の顧問教員からの集中的な命令(指導)に「もう無理です」との言葉を発している。このことは、どのような指導(もはや指導とはいえまい)がなされたのかを理解する重要事実である。事件の経緯で詳述する。
3 何のための部活なのか
事件4日後の保護者説明会(この説明会に保護者である英士さんと奈美さんは呼ばれていなかった。外部の教育関係者から教えてもらって参加することになる)で、英士さんは学校側に対して、「何のための部活なんですか」、「人を殺すための部活なんですか」と問うている。
本来最も安全で安心な空間であるべき学校、教員と生徒との信頼関係の下、社会に出てからの生きる力を育むべき学校で、教員(顧問)の絶対支配関係の中で、教育活動の一環である部活動が続けられていた。学校の中で行われている部活動は、教育活動の一環であるとの位置付けでありながら、現在なお、教員(顧問)の意のままに展開されている例は少なくない。
生徒の命を奪った剣太事件は、教職に関わる全ての者が、心にとめるべき事件である。この一連の事件経緯を詳細に知り、自分が顧問であったら、自分が副顧問であったら、校長であったら、教育委員会の所属であったら、議会・議員であったら、どのようにしてこうした事件を防ぐことができたのだろうか。そう考えてほしい。
剣太事件をたどり、類似の事件が起きないよう、再発防止の研修が行われる必要があろう。この連載を自己又はチームで取り上げ、継続的な検証をしてほしい。
剣太中3、風音中2。
※兄弟二人。何度も「龍虎の戦い」でお互いを高め合った。