2022.03.25 文書図画
有料インターネット広告の掲載を選挙期日当日も継続することができるか/実務と理論
総務省自治行政局地域自立応援課 山田圭佑
1 はじめに
インターネット等を利用した選挙運動が平成25年に解禁されて以降、インターネットが選挙運動の手段として活用されているところ、インターネット上に表示される文字や画像も公職選挙法(昭和25年法律100号。以下「法」という)における「文書図画」として法の適用を受けることとなる。
選挙期日前に掲示等した選挙運動用文書図画について、法上、選挙期日当日にもそのままにしておくことができるものとできないものがあるところ、本問では、政党等が有料インターネット広告(当該政党等の選挙運動用ウェブサイトへのリンクのある有料広告)を掲載することに関し、選挙期日当日における取扱いについて検討を行うことにより、制度理解を深める。
なお文中意見にわたる部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
2 関係規定の整理
(1)有料インターネット広告関係
法142条の6は、公職選挙法の一部を改正する法律(平成25年法律10号)によりインターネット選挙運動が解禁された際、選挙運動に関連する広告を有料で掲載することまで認めることとすると、結果として金のかかる選挙につながるおそれがあることから設けられたものである。
同条1項においては、何人も、その者の行う選挙運動のための公職の候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらのものが類推されるような事項を表示した広告を、有料で、インターネット等を利用する方法により頒布される文書図画に掲載させることができないこととされている。
また、同条3項においては、公職の候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらのものが類推されるような事項が表示されていない有料広告についても、「当該広告に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面にウェブサイト等を利用する方法により頒布される選挙運動のために使用する文書図画を表示させることができる機能を有するもの」、すなわち選挙運動用文書図画を掲載したウェブサイトに直接リンクしたものを、選挙運動期間中に掲載することを禁止している。その趣旨は、たとえその広告自体に選挙運動性がない場合であっても、そのような広告を掲載する行為が全体として選挙運動のために行われたものと評価し得ることから、同条1項の禁止の実効性を確保するために禁止対象とされたものである。
ただし、政党等については、従前より、その有するウェブサイト等に直接リンクした、選挙運動にわたらない政治活動としての有料広告を、選挙期間中、適法に掲載することが可能であったことに鑑み、同条4項においては、同条(2項及び)3項の規定にかかわらず、例えば市長選挙においては、法201条の9第3項の確認書の交付を受けた政党その他の政治団体(いわゆる「確認団体」)は、選挙運動の期間中、当該政党等の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした広告(前述の法142条の6第1項に規定する選挙運動のための広告及び法152条1項に規定する挨拶目的の有料広告を除くものであって、受信者の通信端末機器の映像面に、ウェブサイト等を利用する方法により頒布される当該政党その他の政治団体が行う選挙運動のために使用する文書図画を表示させることができる機能を有するもの)を、有料で、インターネット等を利用する方法により頒布する文書図画に掲載させることができるものとされている。
(2)選挙運動用文書図画の掲示関係
法129条は、選挙運動は立候補の届出のあった日から当該選挙の期日の前日まででなければすることができない旨を定めているところであり、原則として、当該選挙の期日の当日には選挙運動はできない。
ただし、その例外として、以下に掲げるものは選挙の当日においても行うことができる。
・ 選挙事務所を、投票所が設けられている場所の入口から300メートル以外の区域に限り設置すること(法132条)
・ ウェブサイト等を利用する方法により選挙の期日の前日までに頒布された選挙運動用文書図画を、通信端末機器上表示できる状態に置いたままにすること(法142条の3第2項)
・ 選挙事務所を表示するための選挙運動用ポスター等を掲示すること(法143条5項)
・ 個人演説会告知用ポスター等を掲示しておくこと(法143条6項)
一方、法164条の2第1項に規定する、いわゆる「特例看板」(衆議院小選挙区選出議員の選挙等において演説会の開催中にその会場前に掲示する必要がある立札又は看板の類)については、個人演説会等が終了しても、国又は地方公共団体等の所有、管理する施設等である場合を除くほか、当該施設の所有者等の承諾がある限り、そのまま掲示しておくこともできると解されているが、選挙運動用ポスターの場合のように選挙期日当日においても掲示しておくことができる旨の規定がないことから、選挙期日当日には撤去しなければならないものと解されている。
これは、選挙期日当日も掲示したままにしておく場合には、たとえ新たな掲示行為がなくとも、法129条の選挙運動期間の規定違反になり得ることを前提とするものである。
3 設問の検討
既述のとおり、選挙運動用ウェブサイト等については、何人も自由に行い得るというウェブサイト等を利用する方法による選挙運動用文書図画の頒布の特性等を踏まえて、法142条の3第2項の規定により、明示的に選挙期日当日においても削除せずそのまま残しておくことができることとされているが、有料インターネット広告については選挙期日当日も掲載を継続できるとする、明示的な規定はない。
したがって、前述した特例看板に係る解釈と同様、選挙運動期間中に掲載された有料インターネット広告については、法において選挙期日当日においても表示させたままにしておくことができるという旨の明示的な規定がない以上は、選挙期日当日にも当該広告の掲載を継続することは、法129条に規定する選挙運動期間の規定違反となるおそれがあるものと解される。
4 おわりに
以上、政党等が選挙運動期間中に掲載した有料インターネット広告(確認団体の選挙運動用ウェブサイトへのリンクのある有料広告)について、選挙期日当日も掲載を継続することが可能かを検討した。
本問における検討が、読者の法に対する理解の一助となれば幸いである。