2022.01.14 コンプライアンス
第28回 未成年者による選挙への関与
解説3 設問の検討
それでは、以上を踏まえて今回の設問を改めて見てみましょう。
Q1について
① BさんがAさんの選挙運動用ビラに登場しても直ちに違反となるものではありません。BさんがAさんへの投票を促すような記載内容になっており、その内容作成にBさん自身が主体的に関わっているような場合は、Bさんによる選挙運動としてBさんは法137条の2第1項に、Aさんは同条2項に違反する可能性があります。設問のように、Aさんの人物・政策イメージとして登場する程度であれば問題ないといえます。
② 上記①の検討にもあるように、Bさんの選挙運動と見なしうる場合は問題となります。しかし、設問の場合は吹き出しでAさんがBさんの父親であることを示しているにすぎず、これをもってBさん自身の選挙運動と見るのは困難です(吹き出しの内容が「お父さんを当選させてください」などとなっていれば作成の事情によりBさんの選挙運動となりうると考えられます)。したがって、設問の場合も問題ないと考えられます。
③ 檄文は一般に名宛人である候補者や支援者を鼓舞するために送付されるもので、必ずしも投票を促し又は支持を働きかける内容となっているわけではありません。
もっとも、告示日当日の出陣式で読み上げられる檄文は、多分に選挙での当選・投票に向けた文言が含まれており、また読み上げ行為自体をもって聴衆に候補者への投票・支持を依頼する選挙運動としての性質があるといえます。
したがって、仮に代読者が檄文を一言一句そのまま機械的に読み上げたとしても、檄文を読み上げることそのものが選挙運動といえるため、これを満18歳未満の者であるBさんが行うことは許されないというべきです。
④ 選挙運動用ビラに必要な証紙を貼る作業は単なる機械的作業であり、選挙運動には当たりません。法は満18歳未満の者が選挙に当たり労務を行う場合を禁止していない(法137条の2第2項ただし書)ため、設問のような行為や選挙運動用ポスターの貼り付けなどの労務作業をBさんが行うことに問題はありません。これに対し、選挙事務所内で電話作戦を行うことや街頭演説場所でのぼりを持って立っているなどの行為は、選挙運動として禁止されます。
⑤ BさんがAさんの選挙運動用自動車に同乗するだけであれば単なる同乗にすぎず、選挙運動には当たりません。しかし、選挙運動用自動車から沿道の有権者に向かって手を振る行為は、何もしゃべらなくとも特定の候補者Aさんへの投票・支持を呼びかける行為(選挙運動)であり、Bさんが行うことはできません。
⑥ Aさんの選挙運動用ホームページは、有権者に対し候補者の活動を伝え、投票・支持を呼びかけるためのものであり、その内容を作成し公開する更新作業は選挙運動となります。したがって、満18歳未満の者が更新作業を行うことは、原則として法137条の2第1項に抵触します。もっとも、当該更新作業が選挙運動を行う候補者や政党等から具体的に指示を受け、自身は内容策定や公開方法に関与せず、専ら指示に基づき機械的に行うのみであれば単純な労務作業と見ることができ、この場合は満18歳未満の者も行うことができます。
Q2について
① 候補者が自身の父親であることを発言することは単なる事実の告知にすぎず、選挙運動とはいえません。しかし、それを超えて候補者への投票や支持を求めたり、候補者の政策や主張を説明するなどした場合には、その目的によっては選挙運動となる可能性があります。
② ツイッターのフォロー機能は自身が興味のあるアカウントの情報を得るために行うものであり、ライバル候補の動向や情勢を知るためにフォローすることもあることを踏まえると、特定の候補者の選挙運動用アカウントのフォロー自体が選挙運動になるとは考えにくいところです。しかし、自身のアカウントで候補者の選挙に関するツイートをリツイートすることは、当該リツイートによって新たな情報発信となるため、リツイートした者自身の選挙運動となります。
そのため、設問ではBさんがAさんのアカウントをフォローすることは問題ありませんが、Aさんのツイートをリツイートして発信することは選挙運動に当たるため、法137条の2第1項違反となります。
③ 落選運動は解説で述べたとおり原則として選挙運動には当たらず、Bさんをはじめ満18歳未満の者も含め誰でも自由に行うことができます。しかし、例えばライバル候補への落選運動の展開によって他方候補の当選を得させようとする目的がある場合などは、他方候補に係る選挙運動となります。設問の事例でBさんの意図がAさんの当選を得るためにライバル候補の落選運動を行ったような場合は、禁止される選挙運動と認定される可能性があります。
④ BさんがAさんに当選を得させるため、主体的にライバル候補の情報を取得してAさんの選対に報告し対策をとらせることは、Aさんの投票を得る目的で行われるものであり選挙運動になると考えられます。そのため、これを満18歳未満の者であるBさんが行うことはできません。
⑤ 法138条の3は、選挙に関して人気投票の経過や結果の公表を禁止しています。この「人気投票」は特定の候補者のための選挙運動として行われるか否かを問いません。そのため、興味本位のアンケートとして行っても該当します。
また、「公表」は不特定又は多数の者が認識しうるようにすることであり、方法の限定はありません。LINEのグループトークでの投票機能では、投票の途中経過や結果をメンバーが確認できる上、グループのメンバー追加が可能であれば第三者も加入して投票経過や結果を確認できるため、不特定又は多数の者へ伝えられる可能性があることから、「公表」に当たると考えられます。
したがって、設問の行為は法138条の3に違反するものと考えられます。