2022.01.14 コンプライアンス
第28回 未成年者による選挙への関与
解説
解説1 未成年者と政治・選挙運動
1 未成年者の定義
2 満18歳未満の者の選挙運動の禁止
3 満18歳未満の者の政治活動
解説2 その他の注意事項
1 文書図画の頒布禁止(法142条)
2 署名運動の禁止(法138条の2)
3 人気投票の公表禁止(法138条の3)
解説3 設問の検討
解説1 未成年者と政治・選挙運動
1 未成年者の定義
「未成年者」というと、一般には20歳未満のイメージが強いと思います。法も従来は年齢満20歳以上の者を有権者とするとともに、選挙運動についても年齢満20歳未満の者による選挙運動を禁止していました。
しかし、平成27年6月の法改正(平成28年6月19日施行)により、これが年齢満18歳以上に引き下げられました(法9条、法137条の2)。
他方で、上記法改正当時の民法は「年齢20歳をもって、成年とする」(民法4条)としていたため、18歳と19歳の有権者は未成年ながら選挙活動ができ、有権者でもあるというズレが生じることになったのです。
ただ、その後、平成30年6月に民法も改正され、改正後の民法4条は「年齢18歳をもって、成年とする」となりました。同改正は今年の4月1日に施行されるため、同日以降、未成年者は18歳未満となることでこのズレは解消されます。
したがって、巷(ちまた)でいわれている「未成年者も選挙運動ができる」という表現は、今年の3月31日までということになります。
そのため、以下の解説では、正確を期するために法137条の2の表現に倣い、「未成年者」ではなく「満18歳未満の者」という表現を用います。
2 満18歳未満の者の選挙運動の禁止
(1)「選挙運動」は全てできない
法137条の2において、満18歳未満の者の選挙運動を禁止しています。その範囲に例外は設けられていません。なお、この制限は当該選挙の有権者であることまで要求していませんので、ある選挙の選挙運動期間中に満18歳になった場合、誕生日から選挙運動が行えることになります。
(2)「選挙運動」ではない労務は可能
法137条の2第2項は「ただし、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない」と注意的に規定しています。裏を返せば、満18歳未満の者でも選挙運動に当たらない労務は行うことができるということです。
この労務の典型的なものは、個人演説会の設営や荷物の運搬、選挙事務所での電話の取り次ぎといった事務的・機械的作業です。
満18歳未満の者が労務を行った場合に報酬を支払うことは、法197条の2に基づき可能です。
(3)可否が問題となりそうな活動
上記のとおり、満18歳未満の者は選挙運動を行うことができません。ここでは、満18歳未満の者が思わずやってしまいがちな例をいくつか考えてみましょう。
ア 「選挙運動」の定義(おさらい)
まず、法が予定する「選挙運動」の定義を確認しておきましょう。判例は、選挙運動について「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすること」と定義しています(最判昭和53年1月26日刑集32巻1号1頁)。
したがって、ある行為が「選挙運動」となるのは、
① 特定の公職の選挙についての行為であること
② 特定の立候補者又は立候補予定者のための行為であること
③ 投票を得又は得させる目的があること
④ 当該行為が直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為であること
を満たすものとなります。
何が選挙運動に当たるかについては、これまでの記事でもいろいろと述べておりますので、ご参照ください。
典型的な選挙運動は、街頭演説の場所での選挙運動用ビラの配布や投票を呼びかける電話作戦、選挙カーでの連呼などですが、意図せず選挙運動になってしまうこともありますので、その行動が上記の基準に該当するかどうかを見極める必要があります。
イ 思わずやってしまいがちな「選挙運動」
満18歳未満の者が選挙運動に関わるパターンとしては、主に以下の場面が想定できます。
・インターネットによる情報の収集・発信
・学校や就業・アルバイト先などでの見聞や発信
・親族や知人が議員関係者である場合の当該議員の選挙運動への関与
そこで、以下それぞれの場面で想定できる活動を検討します。
(ア)インターネットによる情報の収集・発信
近頃はスマートフォンの普及に伴い、インターネットで様々な情報に触れ、また発信することができるようになっています。そして、インターネットを利用した選挙運動もその方法や対象に制限付きながら認められており(本連載第17回参照)、満18歳未満の者が知らず知らずのうちに選挙運動をしないように気をつけなければなりません。
概要としては以下のとおりとなります。
・ホームページやSNSを利用して特定の候補者の当選や投票を得させるための情報発信(書き込み)を行うことはできません。これには、ツイッターでのリツイート機能などで候補者の選挙に関する記載を引用・発信することも含まれます。
・電子メール(注)での投票・支持の呼びかけは、そもそも候補者や政党等以外の者には許されておらず、満18歳未満の者も当然にできません。
(注)電子メール:SMTP方式が使用され又は電話番号を使用して送受信するもの(詳しくは本連載第16回記事をご参照ください)。
ここで問題となるのは、SNSなどで「いいね!」や評価・低評価ボタンなどの機能を使用する場合です。私見ですが、これらの機能は当該ページやアカウントに対する賛同や反対(否定)の評価を示すものであり、第三者もその評価内容を見ることができることから、投票行動に影響を与えうるものです。そのため、これらの使用もその態様や方法によっては選挙運動に含まれうると考えます。
一方で、いわゆる「落選運動」(ある特定の候補者に当選を得させないことのみを目的とする活動)を行うことは、一般的には選挙運動に当たりません。例外としては当該選挙区の候補者が2人しかおらず、一方の落選運動がそのまま他方候補者の投票・支持の呼びかけにつながるような場合や、形式的には落選運動であっても実質は特定の候補者への投票・支持を呼びかける場合等であり、このような特殊な場合を除き、満18歳未満の者がホームページやSNS、電子メールを利用して落選運動を行うことは可能です。
また、ツイッターなどで特定の候補者のアカウントをフォローすることについては、ライバル候補の動向を知るために行う場合もあることからすれば、フォローそれ自体が直ちに特定の候補者への投票・支持を呼びかける選挙運動に当たるとは言い難いと考えられます。
(イ)学校や就業・アルバイト先などでの見聞や発信
満18歳未満の者が通う学校や就業・アルバイト先で選挙に関する話題が出ることもあります。特に法改正により18歳から有権者となっていますから、関心も高いと思われます。
学校や就業先などで特定の候補者への投票を呼びかけることは選挙運動そのものです。しかし、仲間内の会話の中で特定の候補者のことや政策について話題に上ったような場合はどうでしょうか。
このような場合、候補者の議員としての適否や政策に関する一般的な議論は民主主義における自由な言論の場として歓迎されるべきです。しかし、話題が特定の候補者の投票・支持を得させる意図のもとに行われたものであったり、ある候補の政策を批判してライバル候補への投票・支持を求めるような場合は選挙運動となりえます。
(ウ)親族や知人が公職者や関係者である場合の選挙運動への関与
親族や知人が公職者やその関係者だと、選挙が身近なためいろいろと関与する機会が多くなります。選挙に関連して有形無形の協力や選挙事務所での手伝いをすることもあると思われます。
例えば、前者でいえば、選挙運動期間中のツイッターやホームページ等の更新の手伝い、電話作戦のための名簿作成や幕間演説のための紹介依頼といったことが考えられます。後者の例としては、個人演説会や街頭演説の設営・準備、事務所内でのお茶出しや電話対応などがありうるところです。
これらの関与形態が許されるか否かについての判断基準は、まず、自身の判断が介在しない形式的・機械的な関与にすぎない場合は、選挙運動と認定され難く、反対に自ら判断を行って主体的に行う場合にはもはや機械的な関与とはいえず、選挙運動に該当する可能性があるということです。
その上で、各関与形態が上述した投票を得る目的の有無等の選挙運動該当性を満たすかについて個別事情を考慮し、事実の認定が行われることになります。
上記の例では、選挙運動期間中のツイッターやホームページ等の更新に当たって候補者から指示された内容をそのまま転記して指示どおりに公開するのであれば単純労務であって機械的な関与といえますが、自ら内容や公開時期を検討・判断するような場合はそのような評価はなしえず、もはやその者自ら選挙運動を行っているものと判断されやすくなります。
電話作戦のための名簿作成や幕間演説の紹介依頼についても同様です。候補者や選対からの指示のままに事務作業を行うとか、紹介に当たって単なる連絡係・使者として動く場合は選挙運動とはいえませんが、名簿の内容決定に裁量がある場合、紹介に当たって自ら折衝を行うような場合などでは、選挙運動と見なされる可能性もあります。
後者の例として挙げた個人演説会や街頭演説の設営・準備、事務所内でのお茶出しや電話対応については、いずれも単純な事務・労務作業であり、これらの行為が選挙運動と見なされるような場合はあまりないと思われます。
3 満18歳未満の者の政治活動
法は満18歳未満の者の政治活動について特段の規定は置いていません。したがって、政治活動を行うことについては特に制限はありません。
ただし、高校生については文部科学省から「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」(平成27年10月29日初等中等教育局長通知)という通知が発出されており、そこでは高校生による政治活動等は教育目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものとされています。
また、就業・アルバイト先などにおいても、事業所等が就業規則などで事業所内や就業中の政治活動を制限している場合もありますので、注意が必要です。