2021.12.27 選挙
群馬県榛東村議会──会議規則の改正で「育児時間」を設ける
東京大学名誉教授 大森 彌
定数12人の群馬県榛東村の議会が、2021年12月1日、会議規則の改正案を全会一致で可決し、赤ちゃんを育てる議員が、議会の開会中でも授乳やおむつ替えなどの育児の時間をとれることとなりました。この改正は、今までに例がない仕組みだ、と多くのマスコミが報道しました。報道では、改正条文自体は伝えられませんでしたので、直接、榛東村議会事務局に教えていただきました。ちなみに、村議会は、定数の12人中、男性議員が8人(無所属7人、公明党1人、5期が1人、3期が1人、2期が4人、1期が2人)、女性議員が4人(全員無所属、5期が1人、2期1人、1期2人)という構成になっています。
新設の条文
今まで(現行)の会議規則では、「議員は、招集の当日開会定刻前に議場に参集し、その旨を議長に通告しなければならない」(1条の2)のですが、2条で「議員は、公務、傷病、出産、看護、介護、育児、配偶者の出産補助、弔事、災害その他やむを得ない理由により会議を欠席するときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない。2 前項の規定にかかわらず、議員が出産のため会議に出席できないときは、出産予定日の6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)前の日から当該出産の日後8週間を経過する日までの範囲内において、その期間を明らかにして、あらかじめ議長に欠席届けを提出することができる。」となっています。
今回の改正は次のとおりです。
第2条の次に次の1条を加える。(育児時間)第2条の2 議員が生後満1年に達しない子を育てる場合は、会議中に2回それぞれ少なくとも30分、その子を育てるための時間(以下「育児時間」という。)を議長に請求することができる。ただし、会議時間が変更されたときは、この限りではない。2 議長は、前項の請求があったときは、休憩するものとする。3 育児時間の請求は、文書又は口頭をもって行う。附 則 この規則は、令和3年12月1日から施行する。
出産・育児と会議欠席
現行規則の2条で気づく点は、会議を欠席できる理由として、「公務、傷病、出産、看護、介護、育児、配偶者の出産補助、弔事、災害その他」とあるように、欠席もやむを得ないと考えられる理由(事由)が明示されていることです。
かつては、どこの会議規則でも、「議員は、事故のため出席できないときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない」というように、欠席事由としては「事故」のみが成文化されていたのです。実際には、その他に病欠や看護などの事由で欠席を認めることはあったのですが、この「事故」に出産が含まれるのかどうか定かではなかったのです。普通、「事故」といえば、「思いがけず起こった悪い出来事」のことです。女性議員の妊娠・出産は想定外の歓迎すべからざる「事故」になるのでしょうか。多くの自治体議会では「産休は議員になじまない」等の理由で、出産を会議欠席の事由に加える規則改正を先送りにしていたのです。それが変わったのです。今では、会議規則で上記の2条のように規定するのが当たり前になっています。しかも、上記2条の2項では、出産のための会議欠席の期間を定めています。これも当たり前となっています。
例えば、標準都道府県議会会議規則(最終改正:2021年1月27日)では、「第2条 議員は、公務、疾病、出産、育児、介護その他のやむを得ない事由のため出席できないときは、その理由を付け、当日の開議時刻までに議長に届け出なければならない。2 前項の規定にかかわらず、議員が出産のため出席できないときは、当該出産の予定日の6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)前の日から当該出産の予定日(議員が出産したときは、当該出産の日)後8週間を経過する日までの範囲内で、出席できない期間を明らかにして、あらかじめ議長に届け出ることができる。」と規定しています。
育児時間と会議の休憩
その上で、今回の榛東村議会では、育児時間の導入という新たな仕組みを考え出したのです。村議会で育児を理由に会議を欠席できるよう会議規則を改正したのは2018年でした。当時議長だった南千晴議員が第1子を妊娠したことがきっかけだったといいます。南議員は出産後の議会で、昼休みに自宅に戻って授乳をしていたのですが、十分な授乳時間がとれず、乳腺に母乳がたまって起きる乳腺炎を経験し、会議中の授乳などが課題として残っていたということでした。
今回の改正案は議会運営委員会でとりまとめたものですが、その委員長は南千晴議員で、ご本人は本年の8月に第2子を、また同僚の須田仁美議員は9月に第4子を出産し、2人とも9月の定例会を欠席していました。改正案の提案理由は「議員の議会活動と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となるよう環境整備に努めるもの」となっていますが、育児時間を設ければ本会議や常任委員会を欠席しなくともすむのではないか、というのがアイデアでした。
これまでは、議員が育児を理由に本会議や委員会を欠席できるのですが、今回の改正によって、「生後満1年に達しない子を育てる」議員は、男女を問わず、会議中に2回それぞれ少なくとも30分、その子を育てるための時間(「育児時間」)を、文書又は口頭をもって議長に請求することができ、議長は、この請求があったときは、会議を休憩するものとすることになりました。本会議だけでなく常任委員会でも育児時間の請求と会議の休憩が認められる見通しであるということです。産休明けの議員などが議会の開会中でも育児の時間をとれるため、会議を欠席しないでもすむのです。
これまでも、本会議や委員会の開会中、「暫時、休憩」ということはありました。議会での質疑応答で調整問題が起こり、会議を中断して非公式の折衝を行うためでした。休憩は、政治的な駆け引きの手段でもあるのです。同じ休憩でも、今回は、当該議員からの育児時間の請求に基づいて議長(あるいは委員長)が休憩を宣言するというものです。
今回の会議規則改正について南千晴委員長は、新聞のインタビューで「育児と仕事という課題を抱える当事者こそ議論に参加しやすくなるべきだと思った。小さな村から踏み出した一歩で、多様な人々の意見に耳を傾ける地方議会が増えてほしい」と語っています。育児と議員活動を両立できるようになるということは、自治体議員版の「働き方改革」ともいえるでしょう。議会運営に関する小さな自治体議会の大きな改正だと思います。育児のために会議を欠席しないですむような会議規則が全国的に普及することを望みたいものです。