2021.10.11 選挙
選挙の車上等運動員がやむを得ず実費弁償の法定上限額を超えたホテルに宿泊した場合選挙運動費用収支報告書にどのように記載すればよいか/実務と理論
2 選挙運動に関する支出と収支報告書への記載
(1)選挙運動費用収支報告書
法189条の規定により、出納責任者は、公職の候補者の選挙運動に関しなされた寄附及びその他の収入並びに支出について記載した報告書(選挙運動費用収支報告書)を提出しなければならないこととされている。この報告書には、選挙運動費用の収支を常に明確ならしめ、これを国民の前に公開することによって選挙の公正を確保しようとする趣旨から、この報告書には、「選挙運動に関するすべての支出」を記載しなければならないこととされている。
(2)選挙運動に関する支出
法において「支出」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束をいうものとされている(179条3項)。
また、「選挙運動に関する」とは、「選挙運動を行うために」の意である(「選挙に際し、選挙に関する事項を動機として」を意味する「選挙に関し」よりも狭義に解されている)。選挙運動に関するものであるならば期間の制限はなく、直接選挙運動となるような行為をすることに要する費用のほか、選挙運動の準備行為、立候補の準備行為、選挙運動に従事する者間の内部的な意思の連絡統一のための行為等のように、その行為自体は選挙運動に該当しなくても、究極において選挙運動をするために行われる行為に要する支出も含まれる。
選挙運動員等が選挙運動に関する支出をするためには、立候補準備のための支出並びに電話及びインターネット等を利用する方法による選挙運動に要する支出を除くほか、出納責任者の文書による事前承諾が必要である(法187条1項)。
一方で、立候補の届出があった後、「公職の候補者又は出納責任者と意思を通じてした支出以外のもの」については、選挙運動に関する支出でないものとみなすこととされている(法197条1項2号)。ここでいう「意思を通じて」とは、「選挙運動に着手前又は選挙運動に着手後その未だ完了に至らざる以前において合意ありたる場合をいう」とされている(昭和2年8月内務省議決定)。また、その合意には、選挙運動の費用を支出することについて具体的に合意がある場合はもちろん、費用の支出について特段の合意がなかったとしても、当然に費用を伴うべき選挙運動を行うことについて合意がある場合を含むものと解されている(なお、合意は明示であるか黙示であるかを問わないものと解されている)。
(3)実費弁償等
選挙運動に従事する者及び選挙運動のために使用する労務者に対し支給することができる実費弁償の額の基準は、政令で定める基準に従い、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が定めることとされている(法197条の2第1項)。「実費弁償」とは、実費の支出に対する相当額の補償をいうが、法197条の2においては、選挙運動に従事する者又は労務者が選挙運動等を行う上において要した費用を償うことをいうものと考えられている。
実費弁償として選挙運動に従事する者1人に対し支給できる宿泊料(食事料2食分を含む)については、一夜につき1万2千円が政令で定める基準額とされている(公職選挙法施行令(昭和25年政令89号)129条1項1号ニ)。たとえ実費の支出が多くても、この基準額に従い当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が定めた額を超えて支給することはできず、超過額は当該選挙運動員が自己負担することとなる(仮に出納責任者が実費上限額を超えて弁償した場合は買収の推定を受けるものと考えられている)。なお、実費弁償の対象となる支出は、「選挙運動に関する支出」に該当するものと解されている。
この際、実費弁償の上限額を超えて支出する場合には、その支出全額について出納責任者の事前承諾が必要であると解すべきであり、出納責任者の事前承諾を受けて行った支出とは、当然に「意思を通じてした支出」である。
また、選挙運動員が実費弁償を受けない場合の当該実費弁償に相当する費用は支出かつ(当該選挙運動員からの)寄附と取り扱われることから、上記のような自己負担分が発生する場合には、全額を「選挙運動に関する支出」とした上で、自己負担分は「選挙運動に関する寄附」と取り扱い、選挙運動費用収支報告書に記載すべきものと考えられる。