2021.09.27 政務活動費
第2回 政務活動費による広報費の支出②
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
(※第1回からの続き)
5 切手の購入費用
政務活動における広報活動において、市政報告紙や市政報告会開催に係るお知らせ等を郵送するために、政務活動費により切手をあらかじめ購入することは許される。
また、政務活動費により切手の大量購入を行うことをもって直ちに違法な支出と判断すべきものではなく、切手の購入費が政務活動における広報活動として合理的関連性を有するかどうかで判断する必要があるといえ、広島高判平成31年1月17日でもその旨が判示されている。
【広島高判平成31年1月17日】
市政報告紙に係る費用のうち、切手の購入に係る支出については、原告の主張するように大量購入の事実のみをもって直ちに市政報告紙の郵送代に係る支出であることが否定されるわけではなく、また、切手に対応する印刷費用の支出が報告されていないからといって、切手の購入費が市政報告紙に係る支出であることが否定されるものでもなく、あくまでも上記基準のもとで実質的に検討すべきである。
問題となるのは、政務活動費から切手の購入代を認めるに当たって、切手を購入した年度に使用する必要があるかどうかである。 確かに、他の裁判において、政務活動費により購入した切手を購入した当該年度中の広報広聴活動に使用することが望ましいかどうかはともかく、条例上その使用時期を定めた規定はなく、購入した翌年度に使用することが会計年度独立の原則に反しないとして、切手を政務活動費により購入した翌年度以降にも使用することを認めるものもある。
しかし、大阪高判平成30年3月22日では、切手の購入は、客観的には郵便に関する料金の前払をしたことを表す証票を購入する行為にすぎず、当該切手が当該議員の行う広報活動又は広報広聴活動のために使用されることによって初めて、 上記活動に要する経費に充てられたと確定的に評価し得るものであるとし、あくまでも議員の行う広報活動又は広報広聴活動の前提にすぎないとしている。そして、政務活動費により購入された切手を購入された年度だけでなく、翌年度以降にも使用することを認めると、政務活動費等の剰余金の返還を免れることも可能となり、さらに切手を売却し他の目的の経費として使用することも可能であることから、切手を購入した年度において使用したものについての経費のみ政務活動費の支出として認め、使用しなかった切手代金については政務活動費からの支出を認めないことが妥当であると判示され、この考えによる取扱いが妥当であると考える。
【大阪高判平成30年3月22日】
郵便切手の購入は、客観的には郵便に関する料金の前払をしたことを表す証票(郵便法28条、29条参照)を購入する行為にすぎず、当該切手が当該議員の行う広報活動又は広報広聴活動のために使用されることによって初めて、 上記活動に要する経費に充てられたと確定的に評価し得るものであるから、あくまでも議員の行う広報活動又は広報広聴活動の前提にすぎないというべきである。加えて、郵便切手は、郵便物に添付するほか、料金別納郵便の支払いに充てることができることからしても、その前払い的性格を有することが明らかである。
そして、当該年度に購入した切手を年度以降に使用することを認める、すなわち、当該切手を当該年度内に使用し切らなくても差し支えないこととすれば、政務活動費等の剰余金の返還を免れることが容易になり(この点、当該切手を売却することにより換金し(古物営業法2条参照)、広報広聴活動以外の経費に充てることも不可能ではない。)、年度単位で収支計算がされる政務活動費等の制度趣旨に反する結果を招来するおそれが高いといわざるを得ない。このことは、県において、平成26年10月1日以降、政務活動費を切手の購入に充てることが原則として禁止されていること……からも明らかである。
以上のとおり、改正前条例及び改正後条例の趣旨からすれば、当該年度に購入した切手を当該年度に使用しなかった場合には、当該年度の政務活動費等を上記切手の購入に要した費用に充てることはできないというべきである。
これに対し、被告及び参加人らは、①手引において禁止されていないこと、②議員の活動は年度ごとに完結するものではなく、任期中継続して行われることからすれば、政務活動費等により購入した切手を翌年度以降に繰り越して使用することは当然予定されている旨を主張する。
しかし、上記①についていえば、手引に記載がないことをもって、法令上当然に許容されているということにはならない。
また、上記②についていえば、たとえ議員の活動は年度ごとに完結しない継続的なものであるとしても、……政務活動費等の収支計算が年度単位で行われるものである以上、政務活動費等により購入した切手を翌年度以降に繰り越して使用することは許されないというほかない。このように解しても、翌年度に行う広報活動又は広報広聴活動のために必要な切手の購入費用は、翌年度に交付される政務調査費等から支出することができるのであるから、議員活動に著しい支障が生じるということもできない。