2021.09.10 コンプライアンス
第27回 兼職・兼業の落とし穴(後編)
3 文書図画の頒布(法142条)
公職者等の選挙運動に当たって、身内ともいえる兼職・兼業先の職員や従業員などへの周知等のために文書を配布・回覧することもあるかと思います。
(1)公職者等の政治活動報告や氏名が記載された文書の頒布・回覧
公職者等の政治活動に関する主張などを記載した文書を頒布・回覧することは問題ありません。ただし、選挙運動期間中に公職者等の氏名やシンボルマーク、推薦・支持する者の氏名等を記載した文書を頒布する場合、その目的・態様により選挙運動用文書の頒布に関する規制(法142条)を免れる行為と認定される(法146条)おそれがありますので、控えるべきです。
なお、選挙運動期間中に公職者等の氏名などを記載した時候の挨拶状を頒布した場合は、文書図画の頒布禁止の規制を免れる行為と見みなされるため(法146条2項)、広告などを発行する場合はより注意が必要です。
(2)選挙運動用ビラ、選挙葉書等の頒布・回覧
法は、選挙運動に関し頒布できる文書を制限しています(法142条)。そのため、選挙に関して公職者等への支援を求めるような文書を作成して配布したり回覧することはできません。
なお、選挙運動用ビラや選挙葉書は、選挙の種類によりその枚数が定められ(法142条1項3号~7号)、頒布の方法も定められています(ビラ:法142条6項、公職選挙法施行令109条の6第3号、選挙葉書:法142条5項、公職選挙郵便規則8条)。
このような頒布方法に制限のある選挙運動用ビラや選挙葉書を兼職・兼業先において回覧させることは法定外頒布に当たり、違法となります(法142条12項)。
4 文書図画の掲示(法143条)
(1)公職者等の政治活動用ポスターやその他氏名等を記載した文書の掲示
兼職・兼業先の事務所や店舗等において、取引先や職員などにアピールするために公職者等の政治活動用ポスターや氏名・写真などを掲載した文書などを掲示することも考えられます。
政治活動用ポスターについては、法143条16項において認められた立札・看板の類いや一定期間外のポスター等を掲示することは可能です。
ただし、選挙運動期間中は公職者等の氏名やシンボルマーク、推薦・支持する者の名前等を表示した文書を掲示した場合、文書の目的によっては法143条の文書掲示の禁止を免れる行為(法146条)とされる可能性がありますので、職場内に掲示する書面については配慮が必要となります。
(2)選挙運動用ポスターの利用
兼職・兼業先において、選挙運動期間中に公職者等を応援する意味で選挙運動用ポスターを掲示することも考えられます。
選挙運動用ポスターの掲示については、知事選挙における義務制公営ポスター掲示場及び地方議会議員と市町村長選挙のうち条例で義務制に準じた任意制の公営ポスター掲示場を設けた場合は、公営ポスター掲示場以外で掲示することはできません(法143条1項5号、同条3項、144条の2第1項、同条8項、143条4項)。
したがって、上記の場合に、公職者等の兼職・兼業先に選挙運動用ポスターを掲示することはできません。
他方、公営ポスター掲示場を設置しなかった場合及び地方議会議員と市町村長選挙につき法144条の4による任意制のポスター掲示場を設置した場合は、法144条1項各号の定める範囲内で選挙運動用ポスターを掲示できますので、公職者等の兼職・兼業先に選挙運動用ポスターを掲示することもできます。
ただし、この場合であっても、掲示しようとする兼職・兼業先の場所が不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所である場合は、やはり掲示できません(法145条1項)。
(3)政治活動と関係のない文書の掲示
例えば公職者等の氏名が会社・法人名になっているような場合、当該会社名の看板などを掲げると必然的に公職者等の氏名が表示されることになります。
これについては、政治活動・選挙運動とは関係なく業務上の目的で表示されているにすぎないといえる場合は、法143条に抵触するものではないと考えられています。
他方、業務名目で選挙直前に多数の看板を設置するとか、必要以上に公職者等の氏名が目立つような案内板を設置するなど、掲示の時期や態様、目的によっては法146条の文書掲示の禁止を免れる行為として違法となる場合があります。
また、文書図画の頒布の場合と同様、選挙運動期間中に公職者等の氏名などを記載した時候の挨拶状を掲示することは、文書図画の掲示禁止の規制を免れる行為と見なされるため(法146条2項)、社内や店舗の掲示物などでうっかり違反をしないように気をつけましょう。