2021.08.25 一般質問
第13回 一般質問を議会の政策資源に ③別海町議会「一般質問検討会議」が示唆すること【前編】
「通告書案」をベースにした「論点整理」
別海町議会事務局からは、8月30・31日の2日間の予定で研修の依頼をいただき、当初の企画の段階で「次の定例会で行う予定の一般質問」についてのグループワークも話題になったが、前述の点を説明し、ご一緒する西科純氏の協力を得て、「過去の質問の検証」をすることとした。参上してみると、「過去の質問」も用意されていたが、「参考にするということだけでもよいので」ということで9月定例会の通告書案が用意されていた。
そこで改めて事務局や西科氏とも検討し、研修のタイミングが通告書案を事務局に集約する時期であったこと、また、通告書案が質問の小項目まで用意された「読み原稿に近い水準」であったこと、さらに、その通告書案を使っての意見交換に研修参加議員の了解を得られるということから、急きょ、翌日の予定を変更し、初日は筆者の講話とグループワークとして過去の一般質問を振り返り、翌日の午前中に、通告書案を使って「論点を磨き上げる」研修をしてみることとなった(3)。
その際、意見交換が、「質問者にとって実りある質問にするための」ものであることを参加者とともに確認し、付箋とホワイトボードを使い、それぞれの質問に多くのコメントが寄せられ、かつ整理できるように、指摘する箇所や内容が具体的なものになるように、また、指摘だけではなく評価もされるように工夫した。グループ形式ではなかったが、付箋などのツールの使い方は、おおむね前々項で紹介した現行の形式となった。
筆者は、進行兼アドバイザー役として、ホワイトボードに貼付された付箋のコメントを紹介しながら、限られた時間の中で質問者の問題意識を確認し、「ゴール」をどこに置くべきか検討することに重心を置いて進めた。西科氏、それからこのときには調査で来訪していた東京農工大学名誉教授の堀尾正靱氏にもアドバイザーとしてコメントをいただくことができた。
2019年8月30日の研修の様子
過去に重なるテーマで質問したことのある議員、関係する委員会の議員、経緯や現状を知る議員からのコメントや、期待している答弁と現実の可能性との開き、そのテーマが別海町でどんな歴史や意味があるのかという点、使う言葉の検討、取り上げるべき市民の声や指摘するべき情報の確認、それらを通じて質問者の問題意識や質問の動機が共有されるなど、時間は長くかかったが、実りある意見交換となった。もちろん、研修を踏まえて通告書案を訂正し、再度、事務局に集約することとされた。
通告書案による「一般質問の磨き上げ」の展開
「一般質問を政策資源にする」面での成果や、別海町議会また各氏がそれをどのようにとらえているかについては次回に分析、詳述することとしたいが、まず、その後どうなったかについて紹介しておきたい。
研修の直後となる9月初め、研修を振り返り、その成果を議会に活かせないか議会運営委員会、全員協議会で議論され、議会運営、特に一般質問と委員会調査のフローとして確認されたという(4)。12月議会の前にも西科氏と筆者が招かれ、通告書案による「一般質問の磨き上げ」の機会を続けて持つことになった。そこから、開催の枠組み、例えば質問する議員と有志による任意の機会か、議会として全員参加が基本となる研修の機会かといった議会としての位置付けの差や、委員会などで意見交換のグループを編成するかといった形式の工夫は異なるとしても、通告書案を検討する機会は継続して開催されている。ここからは、現在の名称である「一般質問検討会議」と呼ぶこととしよう。西科氏も日程が合えば参加、またコロナ禍中では筆者が参加できない回もあったが、そのときには木嶋悦寛議員が進行役として開催された。
議会モニターから指摘があった一般質問の登壇者は増加し、2019年12月定例会では、当時の過去最多に並ぶ10人が登壇した。COVID-19のインパクトを受けて様々な動揺はあったが、2020年12月定例会には「町議会史上最多」の12人が登壇した。
変化は数だけではなく、また別の取組みにもつながった。地域めぐり懇談会と一般質問、委員会との連携や、一般質問の新聞折り込みチラシの配布などが進められた。議会広報誌では西科氏の指摘もあり、一般質問の記事に質問者からのコメントが入るようにもなった。
数や形式だけではなく、「質」について測ることは容易ではないが、評価が上がっていることは確認できる。地元紙が一般質問の内容、議論の充実や、委員会と連携して市民の声を提起していくことについて評価する記事を載せ、2018年度まで減少していた傍聴者は、COVID-19禍の中で上下はあるが増加し、一つの定例会で過去の年間傍聴者数を超えることもあったと聞いている。2020年11月から行われた町民アンケートでは、1,500件近い回答が寄せられ、一般質問に関しても高い評価やさらなる努力を求める期待の声があったという。
また、委員会と一般質問との連携に特筆すべき点があるので、ここで、項を変えて紹介したい。
委員会との連携と「(事実上の)委員会代表質問」
「一般質問検討会議」の開催から、一般質問が委員会と連携していくことに長い時間はかからなかった。検討会議の中でも、早いうちから「それ以上は委員会で扱った方がいい内容ではないか」といった声もあり、回を重ねて「一般質問でこの点を引き出したら、あとは委員会で」といった発言も見られるようになった。
また、議会ごと、あるいは行政の雰囲気や慣例や幹部の方針によっても異なる点であろうが、委員会では、事業によっては、行政からの政策をめぐる情報や認識、見解を引き出すことが難しいものがあり、委員会として問い質(ただ)したい内容を一般質問で「委員会構成議員の総意」として行ったのである。
事実上の、と補足するのは、「委員会代表質問」というシクミそのものは一般質問と別建てではないからだ。長らく使われていない「代表質問」制度はあったが、それを再起動するには調整すべき点も多く、趣旨も異なり、時間がかかる。そこで、委員会でとりまとめた内容を委員会の議員が一般質問として行い、そのことを一般質問の冒頭で「○○常任委員会調査を経て、委員の総意をもとに質問をします」を定型句として使い、質問の位置付けを明確にして質問することとした。同じ定例会で初めてそのように3常任委員会の所属議員が「委員の総意」による一般質問を行ったとき、答弁席にさっと緊張が走り、空気が変わったように感じられたという。
もちろん、本会議での委員会代表質問は、委員会主義を崩すものではない。議論のしやすさからいえば、シクミとしても実態としても委員会が重視されるのが当然だが、一方で、本会議で「委員会としての見解」に対する「行政の公式見解」や、得られなかった情報を確認すること、また、そうした質問を通じて多くの市民と委員会で〈争点〉となっている内容を共有することは有益である。委員会の機能と本会議の機能を使い分けることはありえるし、別海町議会での「(事実上の)委員会代表質問」は、情報や見解を確認し、委員会としての見解を示すなどすれば、あとは「委員会に持ち帰って、そこで議論する」ということになる。また、「委員会代表質問」のために、問題意識を整理し、文言を整える過程を委員会で共有することは、委員会それ自体の〈政策・制度〉をめぐる「力」の向上にもつながる。
委員会代表質問の制度化に取り組む議会もあり、委員会活動にとっても効果の高い制度になると想像できる。ただし、その効果や委員会活動とのつながりが制度化前には想像しにくかったり、つくった制度が想定したように機能するとは限らなかったりする。こうした、「今ある制度で試してみる」ことは、その先に制度化があるにしてもないにしても有益であろう。
委員会の取組みでは、地元紙の評価にもあったように、その後、一般質問の前段として「地域めぐり懇談会」を開催、委員会の調査を補強し、委員会代表質問につなげていくシクミにしたことも着目される。